「浦原さん」
「なんですか、さん」



最近のマイブームは、放課後に浦原商店に寄っておいしいお菓子をいただきながら浦原さんと話をしたり、 雨ちゃんやジン太と遊ぶことだ。夕ご飯を一緒にしてもらったこともある。 両親が仕事の都合で家にいないことが多いので、 こうやって夕飯を一緒に食べてると浦原商店のみんなが家族みたいで嬉しいのだ。



「いつも帽子被ってますよねー」
「お洒落な帽子でしょー?」
「(いや、お洒落ではない)どうして帽子なんか被ってるんですか?」



もう浦原商店には数え切れないほど訪れているけれど、 浦原さんが帽子を被っていない姿なんて一度も見たことがない。 夕ご飯を食べるときも、家の中でも。どこでも浦原さんと会うといっつも帽子を被ってる。 帽子のせいで顔に影ができていて最初は怖いイメージだったし (もちろん、今はそんなの全然ないけれど)ちゃんと顔が見たことない。 理由を聞いても浦原さんは「どうしてでしょうね〜」と言うだけ。



「もしかして、実は目を見せるとかっこよくなくなるとか?」
「なんスか、それ。まるでさんが僕のことをかっこいいって言ってるようなモンすよ」



けらけらと浦原さんは笑う。慌ててあたしは「ち、違う!」と否定する。 いや、実はそうなんだけど。こんなおじさんが、と思うんだけど、でも彼を見るとどきどきする (最初、怖いとか思ってたのが馬鹿らしい)だからこそ、浦原さんの顔が見たいのだ。 隙を狙ってひょいっと帽子を取ろうと手を伸ばすと浦原さんは気付いて「おおっと危ない」と避けた。 避けられたので、バランスを崩して倒れそうになったけど、 浦原さんに腕を引かれて倒れるのは逃れられた。



「あ、ありがとうございます」
「不意打ちはいけないッスね〜」
「じゃあ、素直に帽子取ってください!浦原さんの顔ちゃんと見てみたい!」
「仕方ありませんね。でもアタシが帽子を取るのはキスするときだけなんスよ」



だってキスするとき、帽子邪魔になるッスよね?浦原さんはそう言って帽子を取った。 ああ、顔が見れる!とか思ったらぐいっと掴まれていた腕がまた引っ張られて浦原さんの顔が近づく。 え、と思ったときには唇にやわらかい感触。浦原さんにキス、された。



「終了〜♪」



気付いたら浦原さんは帽子をまた深く被っていて、楽しそうに抱きしめながらわたしを見ていた。 みるみるうちに顔が赤くなってくあたしを見て浦原さんは「可愛いッスね〜」とまたけらけら笑う。



「う、浦原さあああん!?て、ていうか顔見れなかったし!」
「条件付きッスよ〜?言ったじゃないですか。アタシは帽子を取るときはキスするときって」
「だ、だけど。そんなあ!?」
サンが見たいっていうならアタシはいくらでも帽子取りますけど」



ニヤリ、と笑って「どうします?」と浦原さんは聞いてくる。ああ、どうすればいいの…。








帽子