エンジンの音がした。すると今まで健二くんと話をしていた夏希は 目をきらきらさせて玄関のほうへかけていった。 健二くんはがっくりと項垂れる。そんな彼に「苦労するね、健二くんも」と肩をたたいてやった。 夏希がこうテンション上がるのは一人しかいない。そうあの人だ。



「侘助おじさーーん!!!!」



家中に響き渡る夏希の声。今来たのは侘助おじさんだ。 健二くんと二人で玄関へ向かうと侘助おじさんに抱きついている夏希の姿がみえた。 健二くんはそれを見てため息をもらす。



「おい、。突っ立ってないで夏希をどうにかしろ」
「はいはい。夏希、離れなよ。侘助おじさん困ってる」
「一年ぶりなんだからいいでしょうー」
「お前にはこいつがいるだろうが」



侘助おじさんは夏希を健二くんのほうに押しやった。



「ほら、二人で買出し行くんだったんでしょ。行ってらっしゃい」
「もー。侘助おじさん、また相手してよね!」
「花札くらいはな」
「絶対にね!行こ、健二くん!」



夏希は健二くんを引っ張って出て行った。侘助おじさんは「まだまだ若いな」と ため息をついて靴を脱いだ。それから私を見て手を広げた。



「なんの真似ですか、それ」
「何だお前は来ないのか」
「冗談はよしてよ、侘助おじさん」
も昔は夏希みたいに飛び込んできただろ」
「そんなこと忘れました!」



いや、決して忘れてなどいない。侘助おじさんが帰ってくるとタックルのように 私は飛び込んでいった。それを見て夏希も真似するようになったのだ(そう、もとは私) だけど私だってもうそんな歳ではない。



「じゃあ、俺から」



侘助おじさんは後ろからぎゅう、っと抱きしめてきた。 いきなりでこんなことされたことがない私は恥ずかしくて、逃げようとするけど がっちりと抱きしめられていて逃げられなかった。もしこんな場面を他の人に見られたら、 ときょろきょろまわりを確認しているとさらに抱きしめる力が強くなった。



「ただいま」



消え入りそうな声で、けれど私の耳にはしっかり届いた。 そういえば去年はいろいろあって昔みたいに「おかえり」って言ってなかったっけ。 私は抵抗するのをやめて「おかえり」ってしっかりと彼に言った。 仕方ないから、しばらくこのままにしようと思う。







おかえり