飲み会を終えて、二次会に行くぞー!なんて盛り上がっていた友人らに「私は帰る」と告げて 居酒屋を出た。なんだか今日は乗気じゃなかったのだ。 東京の街は九時をまわっているのに、賑やかだった。 いつも母に言われていた「絶対夜は一人で帰ってきちゃだめよ」って言葉を思い出すが この賑やかさなら大丈夫だろう、なんて思って私は歩いて帰ることにした。

帰り道、金曜日の夜ということもあって飲み会などの団体で歩いている人が多かった。 酔っ払いにからまれなければさえ、無事家に帰ることができるだろう。



「俺は本当にいいから」



ふと、耳に入ってきた声。この声は聞き覚えがある。団体の中をじっと見るとやはり、理一さんだった。 今年の夏は私用で忙しく、陣内家へ行くことができなかった。だから理一さんと会うのも久しぶりで 嬉しくて声をかけようとした。が、しかし「り」とだけ言ったところで声が止まってしまう。



「いいじゃないですかー!陣内さんいないとつまんないですよ」



理一さんの腕にしがみついて歩いている綺麗な女の人。 その光景を見て、自分でも眉が八の字になるのがわかった。 あれは、誰だろう。ただの仕事の同僚か。それとも理一さんの、彼女か。 しかし理一さんはかっこいいし優しいし、それにいい歳だから彼女くらいいても可笑しくない。 ああ、そっか理一さんの彼女かー…と決まったわけじゃないけど、だけどそのような気がして 私は落ち込んだ。すごく落ち込んだ。 するとそのときに携帯の着信が鳴った。ディスプレイを見ると侘助さんからだった。



『よう
「侘助さん!ちょうどいいところにいい!」
『はあ?なにが』
「なんでもないんです!侘助さんいま暇ですか」
『俺は今暇だからお前にかけたんだよ』
「救世主ですね!私のやけ酒に付き合ってください」
『はあ?なんだ。失恋でもしたのか』



ラッキーだ、本当に侘助さんは救世主かもしれない。 「はい失恋しました」と言おうとしたら携帯がふわりと誰かに取られた。 見るとそこには理一さんが。…え?理一さん?



「侘助、久しぶりだね」
『なんだ、理一もいるのか』
「なんだ、ってなんだよ。は俺と飲みに行くからいいよ」
『ま、いいや。理一とは飲みたくねえからな。に言っておけ。また今度誘うって』



ぷつん、と電話が切れて理一さんは「だって」と言いながら私に携帯を渡す。 侘助さんに悪いことしたなあ、いやそれどころではない。理一さんの後ろを見ると 不機嫌な顔をしたさっきの女の人。



、久しぶりだね。一人?」
「お久しぶりです。一人ですね」
「一人で夜道は危ないっておばさんから言われてるでしょ」
「東京は賑やかだからいいかなって」
「だめだよ」



つん、とおでこをつつかれた(子供の頃によくされていた) そしてほら、行こうかと言って私の背中をぽんっと押した。 あれ、理一さん。



「なにかな」
「いいんですか、二次会」
「いいよ。乗気ではなかったし。それにを一人にはできないかな」
「私もう子供じゃありません」
「わかってるよ。今から飲みに行くんだろう?付き合うよ」
「大丈夫です。それよりも彼女はいいんですか」



さっきからこちらをじっと見ている女の人。



「ああ、あの子は会社の後輩だから」
「ふーん」
「もしかして俺の彼女かと思った?」



私はふいっとそっぽを向いた。その反応でわかってしまった理一さんはあはは、と笑って ぽんぽんと頭を撫でてきた。「残念ながら違うよ」と言って私は少しホッとする。



「それで、やけ酒って?失恋したの?」
「いや、違ったみたいです」
「そう、よかったね」



理一さんは優しく笑う。わかってて聞いているのだろうか、それとも何もわからずに聞いたのだろうか。 いや、理一さんは優しい顔をしていても中身は結構意地悪なところが多いから、きっと前者だろう。



「侘助とは飲みに行くことが多い?」
「そうですね。だいたいあっちからですけど」
「そうか。じゃあ、俺もを誘おうっかな」
「え」
「だめかい?」



だめ、なんて言えないこと知ってるくせに理一さんはわざと聞く。 「しょうがないからいいですよ」って答えると理一さんは笑った。







夜道は気をつけるように