シリウスは犬の姿でホグワーツを廻っていた。真夜中。廊下は暗くて誰もいない。 誰かに見つかってしまう前にさっさとここを出ようと思っていたときに「あら」という女性の声が聞こえた。 そして光を当てられる。すぐに逃げることはできた。しかしその声が聞き覚えのある声だったので 動けなかったのだ。



「見たこと無い犬ね。迷い込んだの?」



彼女はしゃがんで「おいで」と手招きをした。シリウスは従って彼女のもとへと寄る。 彼女は知っている。学生時代を共にした。 シリウスがアズカバンでもずっと忘れることができなかった愛しい、だ。 久しぶりに見るは変わっていなかった。髪が少し伸びていただけだ。



「おいで。貴方お腹が空いているでしょう」



は歩き出す。シリウスは、ちょっとだけなら、とその後をついていった。 の部屋の中は、明るくて暖かかった。はシリウスに魔法をかけて綺麗にしてやった。 そして「待ってて」とだけ告げて奥へと行ってしまった。

シリウスはその場に座り込んで部屋を見渡した。 らしい、シンプルな部屋だ。ベッドの傍にある小さな棚の上にある写真立てを見てシリウスは 胸が痛んだ。けれど、嬉しかった。そこには自分とが笑って写っている写真があったからだ。 はまだ、自分のことを想っていてくれてるのだろうか。



「はい、どうぞ」



奥から戻ってきたは手にチキンが盛り付けられた皿を持ってきた。 シリウスはお腹が空いていたので、がつがつとチキンを食べ始める。 はその様子をソファに座ってコーヒーを飲みながら見ている。



「私、この前おばあ様から見合いの話を出されたの」



シリウスはピタッとチキンを食べるの止める。そしての顔を見た。



「でも見合いなんて嫌。会ったこともないのに。でもおばあ様は言うの。『独り身なんだから』って。 ひどいわよね?私独り身じゃないわ。私にはシリウスがいる。シリウスは言ってくれたわ。結婚しようって」



そのあとすぐにいなくなっちゃったけど、は悲しい顔をして言う。「でも待ってるのシリウスを」 シリウスは嬉しかった。自分が言ったことを覚えていて、今もなお、待っててくれている。 しかし、あの事件があってにはそれから会えなかった。はどう思っているのだろうか。



「ジェームズ達を殺したのはシリウスじゃないってことは私が一番知ってる。皆に言うけれどちっとも 信じてくれない。皆頭おかしいんじゃないの?って言ってやったわ。そしたらしばらくひどい目にあったけど」



「私はまだシリウスのことが好きなのよ」 ふふ、と笑う。シリウスはその場で人間の姿に戻ってを抱きしめてやりたかった。 がわかってくれているのならそれで十分だ。ありがとう。愛している。 シリウスは今すぐにもそう言ってキスをしてやりたかった。 しかしここはホグワーツの中だ。それに外には吸血鬼が山ほどいる。ここで戻ってしまっては 今までやってきた意味がないし、にも被害が及んでしまう。



「さて、お腹はふくれたかしら。もうすぐスネイプ達が見回りにくる時間だわ。窓から逃げなさい」



皿が空になったのを確認したは立ち上がって窓を開けた。 そうだ、本来ならばここに長居してはいけなかったのだ。 シリウスも立ち上がった。久しぶりに幸せを感じてシリウスは嬉しかった。 しかしあっという間だった。もうお別れだ。次はいつ会えるかわからない。 そう何度も来れる場所ではないのだ、ホグワーツの中は。シリウスは少し進んでから 立ち止まり後ろを振り返った。は笑って手を振っていた。



「次に会うときは、ちゃんと人間の姿でねシリウス。無事でよかったわ」



そして窓を閉めた。どうやらはこの犬の姿がシリウスだとわかっていたらしい。 だからあんな話をしたのか。シリウスはため息が出る。しかし、彼女は一体どのときから 自分が犬の姿に化けることができると知っていたのだろうか(学生のとき、一切教えなかった) まあ、いい。それは全部また会ったときに聞けばいい。次は花束でも持って会いに行こうか。 シリウスは森の中へと駆けていった。







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