「明日から夏休みなのよねー…」



そう呟くと、隣に座ってるシリウスが視線だけをこちらに向けてまた外へやった。 朝まで雨が降っていたけれど午後になって朝降ってた雨が嘘だったくらいに晴れている。 雲がゆっくり動いていて、今日はジェームズもシリウスも悪戯をしていないからなんだか静かだ。



「憂鬱だぜ。あの家に帰るなんて」
「そう言わないの。たまには親に顔見せなさいって」



シリウスがあの家を嫌いなのは知ってる。1週間前から「帰りたくない」って言ってばかりだ。 私だって、正直帰りたくない。もちろん家が嫌いとかではない。親に会いたいって気持ちもある。 けれどそれよりもこのホグワーツにいてシリウスやジェームズ、リリー達と一緒にいたいって気持ちの方が ちょっぴり強いのだ。もう5年も通っていて1年の3分の2くらいはホグワーツにいるから すっかりホグワーツが家みたいな感覚になってしまってるのだ。



「なあ、。お前の家行っていい?」
「だめ。マグル界なのよ?」
「おもしろそうじゃん。バイクってやつに乗ってみたいんだよな」



あれかっこいいよな、って笑うシリウス。ああ、きっとシリウスがバイクに乗ったらかっこいいんだろうなって 想像していると「」って呼ばれてシリウスを見ると彼は外を見つめたまま 「家に帰るなんて嘘。やっぱ俺、あの家出るよ」って言った。 でもたぶんこの人はあの家をきっといつか出るんだろうなって思ってたからそこまでは驚かなかった。 視線をまた外に戻して「そっか」って返事をした。



「まー、1日くらいはいるかもしれねえな」
「親の顔、目一杯見ときなさいよ」
「無理だっつーの。むしろ忘れたい」



けらけら笑うシリウスに小さく呟くように「行き先はあるの?」って聞くとしばらく間があってから 「ジェームズんとこに行く」って言った。別に私の家でもよかったのに、って言うと彼はまた笑う。



「さっきは否定したくせに」
「さっきはさっき!」
「気持ちは嬉しいけどやめとく。迷惑かけるしな」
「あっそ」
「拗ねるなって。たまに遊びに行くさ」



シリウスをこっそり見ると、彼は遠くを見つめていた。(何を考えているのだろう)シリウスはブラック家 と縁を切ったら、どうなるのだろう。どこかへ行ったりしないよね、なんて考えちゃう

シリウスって名前を呼ぼうとしたら遠くからジェームズが「シリウスー!ー!出発するってさー!」って 叫んで名前を呼ぶのをやめた。シリウスは彼に「今行く!」と告げてからひょいっと立ち上がった。 私も立ち上がってジェームズたちがいるほうへ行こうとしたら「」と名前を呼ばれて腕をつかまれた。



「目閉じろ」
「…なに?悪戯でもするつもり?」
「いーから」



彼に言われたとおりゆっくり目を閉じる。ふわり、とシリウスの匂いがしたと思ったら唇が触れた。 ほんの一瞬。シリウスにキスされた。驚いて目を開いたときにはもう彼はかばんを持って先を歩いていた。 彼は背中を向けたまま言う。 「何心配してるかわかんねーけど、俺はお前から消えるなんてことないから」と。



「シ、シリウス…!」
、また夏休み明けにな」



ああ、まだ夏休みが始まってさえいないのに、早く終わればいいなんて思った。








早く終わればいいのに