覚えてはいないけれど、悪夢だったんだと思う。いきなり目が覚めた。 身体中に冷や汗。ちょっと息切れしてる。目だけを動かして時間を見ると夜中の1時40分。 眠り始めてから3時間くらいしか経ってない。再び目を閉じて眠ろうとするけど眠れなかった。 ちょっと外の空気でも吸いに行こうか、と私は薄い上着を着て外へ出た。

春といえど、まだ夜は寒い。もう少しあったかい格好してくればよかったなあ、なんて思いながら空を見た。 今日は満月だ。ああ、サソリが言ってたっけ。「明日は満月だな」って。 そのときのサソリはなんだかいつもと違う感じがしたなあ。 はあ、と白い息を出すと砂をざりっ、と踏む音がした。 誰だ、と思いながら少し警戒して相手を見るとそこにはサソリがいた。



「サソリ?どうしたの、こんな遅くに」
「それはこっちのセリフだ」



何やってやがる、なんて言いながらこっちへと来た。 先程までは満月の光が当たらない建物の影にいたから全然見えなかったけど、 こちらへ来たサソリは今は満月の明るい光ではっきり見えた。



「何その格好」



まるで今から遠出をするかのような格好。



「任務?…にしては出るの遅くない?」



それに、任務へ出るときは小隊を率いるけどサソリの後ろには誰もいない。 気配すらもない。しかし任務を1人で行くなんてことは絶対ないし。極秘任務ですらそうだ。 サソリの顔を見ると少し悲しそうな顔。ねえ、ちょっとどうしたの、サソリ。



「里を抜ける」



長い沈黙のあと、サソリが答えたのは里を抜ける、だった。え、ちょっと待ってよ。 冗談でしょう?何言ってるのサソリ。今日はエイプリルフールじゃないんだから。 それに今までそんな話一度も私にしたことなかったでしょう。 任務行くときも必ずどこへ任務行くか教えてくれるアンタが。 それよりも重要な里を抜けるだなんてことどうして私に言ってくれなかったの (いや、問題はそこじゃないけれど) もし私が今こうやって外へ出ていなかったらサソリは何も言わずに里を抜けていたってこと?冗談よしてよ。



「サソ…っ」



名前を呼ぼうとしたらくしゃり、と頭を撫でられた。サソリを見ると悲しそうに笑ってる。 それから手に何か渡された。



、悪いな」



一瞬だった。サソリはそれだけ言うとその場から消えた。何、謝ってるのよ。 いつも任務へ行くときは「またな」って行くでしょう。 悪いな、じゃない。私が欲しいのはまたな、って言葉なのに。 またなって聞いたときは絶対サソリは帰ってきてくれたのに。ねえ、どうして。

渡されたものは、額あてだった。けれど里のシンボルにキズがある。知ってる。 ずいぶん前、サソリから聞いたことがある。「このマークにキズをつけたときは、里を裏切るって意味だ」ああ。 もしかして彼はあのときから既に里を抜けることを考えていたのだろうか。 そのときに言ってくれればよかったのに。「俺里を抜ける」って。 そうしたら、私は止めることができたのに。私はまだ温もりのある額あてをぎゅっと握った。








ああ、どうかこの温もりが消えませんように