おやつを作るのは俺の仕事だ。 一時間くらい前に厨房にたって、準備をする。 途中でルフィやチョッパーが「今日のおやつはなんだ!?」と顔をのぞいてくることもある。 そんな彼等に俺は「お楽しみだ」と答えてやる。



「サンジのおやつー」



そう言って急に現れたのはだった。 彼女もルフィたちの同じように「今日のおやつなに?」と聞いてくる。 俺は「当ててみな」と言う。



「りんごの匂いがするから、アップルパイ?」
「正解」
「わーい。わたしサンジのアップルパイ大好き。今日もわたしのぶんは二個作ってね?」



彼女は欲張りのことを言う。毎日おやつを聞きにきて、それから自分のぶんは二個作ってね、と。 俺はそれを知っているから、いつも余分に作っている。 もうこれが日課になっているからだ。それから焼けるまでには後片付けを手伝ってくれる。 オーブンがチン、と完成の音を鳴らすと、は「できたー!」と言いながら厨房を出て行く。 きっとみんなに言いに行ったのだろう。俺はそんな彼女を見て笑ってしまう。

アップルパイと紅茶のセットを甲板まで運ぶとルフィとチョッパーが目を輝かせて待っている。 「はやくゥ!」と言ってパイに飛びつこうとした彼等を俺はひょいっと避けて ナミさんとロビンちゃんのところへ行く。彼女たちに渡してから俺は野郎どもにパイを渡す。 そんな行為に不満なのか、ルフィたちがパイを頬張りながら文句を言う。



「別に俺たちが最初でもいいだろー!」
「馬鹿。こういうのはレディーファーストなんだよ」
「でも、いつもには一番最後に渡してるじゃねえか」



そこで俺は言い返せなくなる(確かにその通りだからだ) するとナミさんが「いろいろ事情があるのよ」と助けてくれた。



「サンジくん、が早く食べたがっていたわよ?行ってあげて」



俺は彼女にありがとう、と言ってから厨房に戻った。



厨房に戻ると、がちょこん、と座っている。 彼女はみんなに知らせたあと、ふらりと消えて俺が厨房に戻ってくると彼女はそこにいる。 はおやつを一番最後にもらいたがる。それも厨房で。

過去にに「サンジはみんなとおやつ食べないの?」と聞かれたことがある。 俺はみんなにおやつを渡したあと、厨房に戻って後片付けをしているから みんなとおやつを一緒に食べることなんていうのは少ない。そもそもあまり自分のぶんを作らないのだ。 俺はに「そういえばそうだな」と答えた。彼女はその答えを聞いてむっ、という顔をしたのを覚えている。 その次の日からだ。作っているときに顔を出して二個作ってね、なんて言うようになったのは。 みんなにおやつを渡しているとき、彼女はどこにもいなくて、 厨房に戻ると、座って待っているようになったのは。 「サンジとおやつ食べるの付き合ってあげる」と偉そうに言うようになったのは。

厨房で待っていたに、たくさんのミルクと砂糖を入れたアップルティーとパイを出してやる。 もちろん、彼女が言っていた通り二個。 彼女が二個要求する理由を、俺は知っている。



「はい、サンジに一個」



こうやって、一個を俺にくれるからだ。 俺が自分のぶんを作らないのを知っているから。だから最初は「わたしぶん二個作ってね」と言って それからあとにその一個を俺に渡す。そして俺と一緒に厨房で食べる。



「好き」



二人で食べているときに、いきなり微笑んでが言う。 俺はびっくりして「は?」と間抜けな顔をしてしまう。 そんな俺の顔を見てはふふ、と笑った。



「この時間好き」



ああ、そういう意味か、と俺は少し落胆する。 そして俺も好きだよ、と答えてやる。



「この時間が?それとも、わたしのことが?」



はにいっと笑った。なんだ、こいつは俺をからかってんのか? 俺はパイを置いてに近付いた。



「口についてんぞ」



そう言ってキスをした。 ふわりと彼女の甘い香りと、りんごの香りが混ざりあって俺を酔わせる。 キスをしたあと、彼女を見ると少し嬉しそうな、けれどちょっと不満そうな顔をしている。 「しつもんにこたえて」俺は思わずふ、と笑ってしまう。



「どっちも好きに決まってんだろ」



俺はにさっきとは違う、深い口付けをしてやった。







二人きりの厨房で