今日の五時間目は自習だった。 プリントが配られて、真面目にする人もいるがほとんどは雑談か机に突っ伏して寝ている人ばかりである。 隣の席の丸井も間抜けな顔をして寝ていた。わたしもプリントをやるつもりは毛頭ないので 寝ようかな、と机の突っ伏すと「寝るんじゃなか」と机をガンッと蹴られた。 わたしはゆっくり身体を起こす。そこにはニイッと笑った仁王。前の席は仁王じゃないのに。




「痛いんだけど」
「つまらんのじゃけど」
「(聞けよ)わたし今から寝るところだから構ってやれないの、ごめんね」




机に突っ伏す。後ろから「暇じゃ、暇」と繰り返して言ってくるけど無視無視。 しばらくすると何も言わなくなったのであきらめた、と思ったけど次に机をガンガンと 何度も足で蹴られた。そんなことされたら誰も寝れない。わたしはまた身体を起こした。




「なんなの」
「暇じゃ」
「寝なよ」
「午前中いっぱい寝たんじゃ。目覚めとる」
「じゃあサボったらだめじゃん」
「・・・」
「もー、仁王は数学が好きなんだからプリントやればいいでしょ」
「好きやないよ。得意なだけじゃ」




それにもうやったナリ、そう言ってぺらりと数学のプリントを見せられた。 ほんとかよ、と思ってみてみるけどちゃんと途中計算も書いてあるから ちゃんとやったんだと思う。あとで見せて。だからもうおやすみ。




「だーめ、寝かせん」




ぎゅ、と鼻をつまれて息が苦しくなる。くるしい、息できない「口で息すればええじゃろ」ああ、そうか。




「でもやっぱりくるしい」
「ほーか」
「離して〜」
「嫌じゃ〜」




やめてー、とわたしは仁王から身体を遠ざけた。やっと手を離してくれて わたしはぷはーっと勢いよく息をはいて吸った。ぜえぜえしていると仁王が笑う。




「わたし眠いの。邪魔しないでね、ほんと」




ほんっとやめてね、と釘をさす。何度も言うと仁王はわかってくれたようで、大人しくなった。 わたしは机の突っ伏す。ようやく眠れる。うとうとするけど、なんだか落ち着かない。 少しだけ顔をあげてみると、仁王はまだ椅子を後ろに向けたままでわたしの机にひじをついて じっとこっちを見ていた。落ち着かないわけだ。みないで。




の寝顔見ちゃろうと思おて」
「丸井みたいに間抜けな顔しちゃうからやめて」
「そんなことないぜよ、可愛い寝顔じゃ」
「まだ寝てないし」
「この前見た」
「さいってー」
「たまたまじゃもん」
「男が、もん、とか可愛くなーい」




もういい。寝顔見られてもいいからとにかく眠いから。 仁王なんて知らない。無視する。もう寝る。 そう言うと彼は「俺も眠くなってきた」と言ってわたしの机に突っ伏した。 なんなの、もう。そもそもそこ仁王の席じゃないでしょ。自分の席戻ってよ。 そう言うと「やじゃ」と言って顔をこちらに向けてきた。数センチしかない、距離。 思わずドキッとする(いけめんだ)




「顔近い」
「どきどきする?」
「こんないけめんが目の前にいたらどきどきするよ、誰だって」
「俺もどきどきしとるよ」
「わたしに?」
「お前さんに」
「嘘だあ」
「詐欺師だって嘘をつかないときもあるぜよ」




それから仁王は目を瞑った。寝れるの?「寝れる」そう。じゃあおやすみ「ん」。 わたしも目を瞑った。しばらくするとすー、と寝息が聞こえる。 寝るのはやいなあ、なんてぼんやりしながらわたしも寝ようとしてみるけど そういえばさっきよりも全然眠くない。目覚めちゃった。 目を開けるとまた仁王の顔。うん、やっぱりかっこいい。寝顔も素敵。 じっと見てるとまたどきどきし始める。ああ、目が覚めたのはこのせいなのかも。 「におう」そう小さく呼んでみるけど反応はない。本当に寝ちゃったのかな。 つん、と控えめに仁王の腕をつついてみると、仁王がぱちりと目を開けた。




「あ、ごめん、起こした?」




つついた指を引っ込めようとしたら仁王がその指に自分の指をくっつけた。 そんな仕草にきゅん。でも仁王が「E.T」とか言うから思わずっぷ、と小さく吹いてしまった。 そして彼は寝てなかったらしい。「ねたふり上手いじゃろ」とにやにやした顔で言ってきた。




「仁王のせいでわたし目覚めちゃったじゃん」
「それはめでたいナリ」
「はあ?」
「でも今度は俺が眠くなってきた」
「えー?ちょっとそれひどくない?」
も寝ればよか。一緒に寝よ」




ぎゅ、と指を握られた。それにまたきゅん。 でも仁王はそのまま「おやすみ」と目を閉じた。また寝息が聞こえてくる(今度は本当なのかな) 目が覚めたと思ったけれど、こうやって人が寝ているのを見ていると なんだかわたしも眠気が再び戻ってきた。 おやすみ。わたしもそう言って目を瞑ったら、仁王が少しだけわたしの指を握る力が強くなった、気がした。







Good night