「ああっ!」



そう叫ぶと、遠くから「うるせえびょん!」と犬に怒鳴られた。これで犬に怒られるのは何度目だろう。 でも、誰だってマニキュア塗っててずれたり、うまくいかなかったら思わず叫んじゃうでしょう?いつものわたしだったら、 一度失敗したらあきらめる。できないもんはしょうがない、と。だけど今回はあきらめるわけにはいかないのだ。 この前骸のもとへ来たM.Mを見たときに、爪の手入れが綺麗で、マニキュアがキラキラ輝いてた。 それに比べてわたしの爪は何の手入れもしてなくて、すごく恥ずかしい気持ちになった。 だから、今日ちゃんと爪の手入れをしてこの前買った新品の可愛いマニキュアを塗ろうとしていたのだ。(失敗ばかりだけど)



、もう明日でも…、いいんじゃない?」
「だめ!今日じゃなきゃ意味ないの」
「どうして?」
「絶対骸には言っちゃだめだよ?」
「うん…」
「今日骸とね、一緒にでかけるの!」



やっぱり、オシャレしなきゃだめでしょう?それでね、この前M.Mが爪に綺麗なマニキュアを塗っていたから、わたしも負けるもんかと思って、 今日頑張ってるわけ!そう言うと、クロームちゃんはにっこり笑って「はそのままでも可愛いから大丈夫だよ」って言ってくれた。 ああ、もうクロームちゃん可愛いなあ。だけどやっぱりマニキュアはあきらめるわけにはいかない!



「骸に可愛いって思われたいしさ」
「クフフ、それは嬉しいですねえ」



さて、やり直し!と気合を入れてまたマニキュアを塗ろうとしたとき、聞き覚えのある声がわたしの耳に入ってくる。 隣にいたクロームちゃんをもう一度見ると、そこにはクロームちゃんじゃなくて骸がいた。う、そ、!



「…いつの間に」
「僕とのデートはそんなに楽しみなんですねえ」
「デ、デートじゃないでしょ!ただ、一緒にか、買い物を…!」
「おや、僕はデートのつもりでお誘いしたのですが?」



クフフ、と笑う骸。わたしの気持ちを知っておいて、意地悪なことをする男だ(それでも好きなんだけれど) だけどどうして骸はクロームちゃんと話したことを知っているのだろう、とふと疑問に思ったが、忘れていた。 クロームちゃんの見ているもの、聞いているものは骸にも届いているのだ。しまった、いつも気をつけていたことなのに。くそう!と 思っていると、すっと手からマニキュアが骸にとられた。



「え、ちょっと!」
は不器用ですから。僕がやって差し上げましょう」
「い、いいよ!」
「さあ、手を」



骸は私の左手をすっと掴んだ。そして丁寧にマニキュアを私の爪に塗っていった。うわあ、もう本当にやめてよ! 緊張して手汗かいたらどうしよう!ああああ!本当にこの男はわたしの気持ちを知っておきながらこんなことををを!ていうか、 どうして女のわたしより男の骸がこんなに塗るの上手いだよう!なんて目を泳がせているうちに、両手の爪すべてにマニキュアを塗り終えた骸は、 最後にちゅ、と手の甲にキスをした。真っ赤になっていると、「少し早いですが、行きましょうか」とわたしの手をぎゅっと握った。 ああ、こんなんで、今日の一日わたしの心臓は持つだろうか。








それからというもの、骸のマイブームになったのか、出かける前はわたしの爪に毎回違うマニキュアを塗るようになった。
(む、骸!塗るのはいいけどその最後のキ、キスやめてよ!)(おや、嬉しいくせに)(なああああ!?)