「ねえ、レオくん」



白蘭の部屋のソファでお菓子を食べながら、目の前で花を差し替えているレオくんに声をかけた。 すると彼は、花を花瓶に差し込むのを一旦やめて、わたしの方に顔を向けた。 そしておどおどしながら「ど、どうしました?様」と問うてくる。 そんな彼を見て少し笑えてくる。あの"彼"がこんなキャラを、ねえ?



「この仕事やめたら?」



優しく言うとね。でもきつく言うと、この仕事をやめて頂戴。 ここにいないでほしい。そう言うとレオくんは驚いた顔をした。無理もないだろう。 いっつも「レオくん、レオくん」って呼んで一緒にお話をしているこのわたしがいきなりひどいことを 言うのだから。彼は泣きそうな顔で「急に何をおっしゃるんですか、様・・・」と。



「ここは危険だから…骸」



呟くように名前を言うと、彼はぴくりと動いた。「何を…様。僕は、骸という名前ではありません」 青ざめた顔でいうけれど、わかってるよ骸。昔言ったでしょう?貴方のつくる幻覚は、 どうしてか見分けることができるって。最初レオくんの姿になってここへ来たとき一瞬で わかったんだから。



「…どうしてこんなところにいるの?白蘭も薄々気付いていると思うの。早く逃げて」
「まったく、貴方には敵いませんね。しかし、いくらのお願いでも、それはできませんね」



クフフ、とあの独特な笑い声を出して彼は姿を現した。 久しぶりに見る、骸の姿に胸が少し高鳴った。今思っても無駄なのに、昔に戻りたい、そう思った。 昔はこの顔を毎日飽きるほど見ていたのに。



「どうして?白蘭は危険だって」
「その危険だという白蘭と一度戦ってみたいと思いましてね」
「戦うって…。簡単に言うけれど…」
「しかしそれはオマケ、と言っていいでしょうか」
「オマケ?」
「本来の目的は、貴方を助けるためです」



すっと骸の手が私の頬を撫でた。助けてくれるのは嬉しい。だけど、骸はわかってない。 あの人が、白蘭がどれだけ危険で、強いかってこと。 そうきつく言うと「おやおや、僕を信用していないのですか?」と言われた。違う。 骸のことはすごく信用してる。けれどこうやって私がここから逃げられないのもあの人の仕業だから。



「ねえ、お願い。骸にはいなくなってほしくないの」
「心配無用です。僕は貴方を置いていなくなったりしません」
「違うの。お願い、もうすぐで_____」



あの人が帰ってきちゃう。目を瞑ってそう言おうとしたときに「チャン、ただいま♪」という声が 聞こえた。はっと閉じていた目を開けて入り口を見れば、白蘭がマシュマロを頬張りながら帰ってきた。 やばい、今ここには骸が…と思ってあたりを見回すとそこには誰もいなかった。骸? もしかして今のは夢だった…?



「あれー?レオくんどこに行ったの?まだ花の入れ替えの途中じゃないか」



いつも置いてある花瓶に目を向ければ、花の入れ替えの途中だった。 ああ、やっぱり夢じゃなかったんだ。きっと骸はどこかに隠れたんだ。 そしてまたレオくんの姿に戻って彼はここへやってくるだろう。 「ねえ、レオくんは?」と聞いてくる白蘭にわたしは 「どうしても紅茶が飲みたくなったから、途中でやめさせて取りにいかせたの」と嘘をついた。 白蘭は本当は何を思っているかわからないけれど「ふーん」とだけ言ってわたしの隣に座った。 久しぶりに聞いた、骸の声が耳から離れない。骸、お願いだから無茶はしないでね。