お昼休み。食堂へ行くと、購買の前にたくさんの人だかり。 けれどその中で一人だけトサカ頭がひょっこりと出ている。「クロー!」と名前を呼んでみると 彼は振り返り、わたしをみて手をあげた。それからしばらくして両手にたくさんのパンをかかえて わたしの元へときた。今日どこで食べる?と問うといつもんとこでよくね?と答えが帰ってきた。 そのいつものとこ、(つまりは中庭)にいってわたしはお弁当、彼はたくさんのパンを広げて昼食をとる。



「最近パンだね。ママさん、お弁当つくってくれないの?」
「忙しいんだとよ。まあ俺はパンでも別にいいけど」
「ふーん」
「そこは可愛く、わたしが作ってきてあげよっか?じゃねーの?」
「わたしが料理下手なの知ってるでしょう」
「まあ。俺が一番わかってる自信はある。でも気持ちが大事でしょ」
「わたしが作ってきてあげようかっ?」
「もういいわ」



なによーう。卵焼きをとって食べようとしたら、クロがわたしの手を掴んで自分の口へ持っていった。 もう!と彼をたたくともぐもぐしながら「やっぱりのお母さんがつくる卵焼きは絶品だな」と "お母さん"を強調して言う。



「そういえば、今日山本くんに聞いたよ。この前の練習試合・・・烏野だっけ? 可愛いマネージャーさんいたんだってね」



先週、練習試合しに行くと行って青森にいった男子バレー部。 クロがパンを買っているときに山本くんと会い、少しの間喋っていたときに 「実は相手校にすっげえ、美人マネージャーいたんッスよ」と恨めしそうに言っていた。 そういえば男子バレー部ってマネージャーずっといないよね。 山本くんが「是非、さんマネージャーしてくださいよ。どうッスか」と薦めてきた。



「どう?わたしがマネージャー」
「料理もろくにできないがマネージャーなんて務まるかよ」
「一生懸命やるよ。それに料理ができなくたって他はできるかもしれないじゃん」
「ダメだ」
「なんで」
「ダーメ」
「マネージャー欲しいってずっと言ってたじゃん」
「ダメ」



バレーの知識もちゃんとあるよ?ルールだって知ってるよ?何を言ってもクロは「ダメ」の二文字を言い続けるだけ。 そんなにわたし頼りないかなあ。音駒の美人マネージャーだ!って他校から言われてみたいのになあ。 なんて冗談っぽく言うと「それが嫌なんだよ」とぼそりと呟いたクロの言葉をわたしは聞き逃さなかった。



「なんで?」
「他校の奴に見せられっかよ。うちだけでも山本がお前のこと褒めまくって大変だってのに」
「それ、ヤキモチ?ヤキモチ?」
「はいはい。ヤキモチヤキモチ」



適当に返事をしてくるとけど、少しむっとした顔をしてパンを食べてる。 ちょっとでもヤキモチやいてくれたのかな?なんて嬉しくなってわたしは「むふふ」と 奇妙な声を出してしまった。



は、俺の彼女だけで充分」



いつものニヤニヤした顔じゃなくて、滅多にみれない笑顔をみせたかと思うと がしがしとわたしの頭をかき回した。ああ、幸せだなって思った。








そんなお昼の出来事