くそ。なんであんな奴好きになっちゃったんだろう、と私は泣きながらそう思った。 私はつい先ほど、告白を断られた。いや、ダメ元で告白したので、振られることは覚悟していた。 していたはずなのだが、畜生ひどい断り方をされたのだ。



「ごめん。僕は君にまったく興味がないし、まずいきなり告白されても困る。名前を名乗れ。  ああ、それからたとえ接点があったとしても今バスケにしか興味ないからどっちみち無理かな」



にこり、とあの素敵な笑顔でそう言われた。それから私が何か言う前に彼は 「じゃあね」と言って校舎に入っていってしまった。 はあ?なんだ、あいつは。信じられない。どうして私はあんな奴のことを好きだったのか、 と過去の(といっても本当に数分前の)自分を殴りたくなった。 そういえば、同じクラスの黄瀬には彼のことを好き、だと言っているが 彼からはいつも「赤司っちはやめておいたほうが…」と何度も言われていた。 「それは見る目無いッス」とか言われたこともある。 あの頃は自分が整った顔してるからって、と怒っていたがそれが今になって正しかった、と思う。 まじで私見る目無いわ。やっぱあれだ。外見だけで決めるのはよくないな(当たり前だ)



「あーもうやだ」



そんなこんなで五時間目の授業をサボってしまった。 体育館の裏で一人寂しく泣いている。言っておくが、悲しくて泣いているのではない。 悔しくて泣いているのだ。そこのところ勘違いしないで欲しい。 しばらくうずくまっていると、体育館からダンダン、と音が聞こえてきた。 ああ、そういえば五時間目体育バスケだっけ。うわあ、やりたかったなあ。 今は涙腺が弱いので、ちょっとネガティブになるだけでぶわっと涙が出てくる。 目痛い、と思いながらこすろうとすると「あーあ」と誰かが私の手を掴んだ。 それから私の目尻に溜まっている涙を指で掬い取った。



「き、黄瀬ぇ…」



それは黄瀬だった。体育館にいるはずの黄瀬が。一番体育のバスケの授業を楽しみにしている彼が、 どうしてここにいるのだろう。しかも制服姿で、ちょっと息切らしてる…。



「いつも楽しみにしてる授業ほっといてこんなところで何やってるんスか。探したんスよー?」
「き、黄瀬こそどうしたんだよ、ばかやろー」
っちが心配で。さっきの振られてくるわー!っていう元気どこいったんスかー」
「聞いてよ、黄瀬ー!!」



一部始終を黄瀬に全部話す。すると、「あー」と苦笑いしながらだから言ったじゃないッスか、と。 そうだね、黄瀬の言うとおりだ。私センス無いわ、ほんと。 その意味で本当にあんたはすごいと思うよ。外見良し、性格も良し、スポーツ万能。そりゃモテるわけだ。



「じゃあ、俺と付き合う?」
「そう言われたら女子イチコロだよ」
っちに言ったんスけど」
「黄瀬と付き合う子はきっと幸せ者だね。黄瀬は優しいもんね」
っちさっきから俺の話聞いてるッスか?」
「なんでだろー。なんで私黄瀬を好きにならなかったんだろ」
「ほんとに。俺のこと好きになっちゃえばいいのに」



また私の目尻に溜まっていた涙を指ですくう黄瀬。



「俺誰構わずこんなに優しくしないッスよー?」
「そなの?」
「ん。っちには特別」
「ありがとう。嬉しいよ」
「もう遠慮しないッスから」
「うん。…え?何か遠慮してたの?」
「すんげえ遠慮してたッス。もう遠慮せずに言っていいッスか?」
「どうぞどうぞ(何遠慮してたんだろ)」



間を置いてから彼は言った。



「俺、のこと好きッスから」
「…うん、ありがとう………ん?いやいやいや!ちょっと待っ、」



顔が近付いたかと思ったら、頬にキスをされた。 びっくりして「き、きせえええ」と言うけれど、彼は笑って今度は目尻にキスをしてきた。 いきなりの展開で状況が把握できなくて。目をぱちくりさせる。 黄瀬はまた顔を近づけてくるので、慌てて私は彼の顔を両手で押さえる。 けれど私の腕を黄瀬は掴んで「邪魔なんスけど」いやいや、おかしいって。 何が邪魔だ!



「黄瀬、やめてよ。は、恥ずかしい。てかそれ以前にあんた、何やって、」
「冗談じゃないッスよ。てか遠慮しないでいいって言ってくれたのっちだし」
「そ、そうだけど!てかいつから…」
っちが赤司っち好きになるずっと前から」
「え、そんなにか」
「結構傷ついてたんスけど。っちから赤司っちのこと相談されるの」
「だって、そんな知らなかったし…」
「でも、まあ、そのとき俺が好きって言っても聞かなかっただろうし」
「そだね。あの頃赤司くんに夢中だったわ」
「でも今は夢中じゃないッスよね」
「夢中じゃないけど(てかむしろ逆)それに私失恋したばっかだし!そんな軽くほいほい気持ちいくような女じゃないんだから!」
「わかってるッス。だから覚悟、しときなよ?」



もう私はぽかん、とするだけで。え?覚悟って何?なん思っていると、 腕の力が弱まったタイミングで、黄瀬が「じゃあ、その挨拶ッス」と言いながら唇にキスをしてきた。 私は唇を押さえて黄瀬を見る。たぶん今顔が真っ赤だと思う。ていうか、何が挨拶よ! 私そういうのに慣れてないのに! 黄瀬はそんな私を見てちょっと驚いた顔をしてからくすくす笑う。



「いきなりハードルあげすぎたッスか?」



黄瀬におちるまで、時間の問題かもしれない。







Until it falls to love