わたしの理想の男の人。それは優しくて、わたしを守ってくれる人。 付け加えると見た目はチャラいほうがいいかも。それで身長は高い。 それを臨也さんに話すと「っは」と笑われた。そう、馬鹿にされたのだ。 なんですか、可笑しいですか?と少ししかめっ面で言うと 臨也さんは「そんな男この世にはいないね」といわれた。



「世の中わからないですよ?臨也さんもそれはわかってるでしょ?」
「それはそうだけどね。じゃあ、何。ちゃんはそういう男はいるとか思ってるわけ?」
「もちろん!」
「けれど考えてみなよ。見た目チャラいのに優しいって、ただのヘタレだと思うけど」
「それでいいんです」
「ヘタレは人を守るなんてことできないね」
「できますー!」



わたしは一口コーヒーを飲んだ。 そういえばどうしてわたしは今臨也さんとこうやって 臨也さんの仕事場でのんびりとお茶をしているのだろう。 ああ、そうだ。池袋で臨也さんと会って、 少し話をしてたら静雄さんが現れてそのまま一緒に逃げて…ここに来たんだった。 折角会ったんだから、お茶でもしようか。と臨也さんが言ったのだった。



「けど、そう言ってて理想とはかけ離れた男にキュンとくるのが女ってもんだろうね。女は単純だ」
「わ、わたしは理想の人にしかキュンッてしない。だって今までがそうだもの」



今までって言っても、理想の人なんて現れたことなんてないけど。 でも理想じゃない人に「好き」とか言われても全然嬉しくなかったし。 だからこれからも理想じゃない人にどんなことをされてもわたしは好きにならないだろう。 わたしが好きになる人は理想の人なのだ。



「へえ。どんなことをされても?」



臨也さんは立ち上がった。そしてわたしの前に立った。 なに、この人は今から口説きでもするのだろうか。 心配しなくてもわたしは臨也さんにキュンってすることなんてないと思うよ!(自信はある!) けれど、臨也さんがどんなことを言うのだろうと期待をしているとくいっとあごを臨也さんの 手で上に上げられた。



「えっ、臨也さんになにすっ…ん、ふぁ…」



思ってたこととは全然違った。臨也さんはわたしにキスをしてきたのだ。 それも深いやつ。気付いたらソファに倒れこんでいて、臨也さんがわたしの上に覆いかぶさっていた。 何度も何度も角度をかえて。深くふかく。



「ははっ、どうだった?」



長い間濃厚なキスをしたあと、唇を離して臨也さんは言う。 急に離した唇にはまだ熱が残ってる(一瞬さびしい、と思った自分が恥ずかしい) けど臨也さんの言うとおりだった。臨也さんは理想とは全然違う。 むしろ正反対だ。意地悪で、背もそんなに高いってわけでもない。 チャラくなんてない。なのに、キスをされてから心臓がどくどくうるさくて。 いつも見てる臨也さんなのに、なんだかかっこよく見えた。



「…臨也さんのばーか。乙女心返せ」
「だから言ったんだよ。本当に女って単純だ」
「ああ、臨也さんにはキュンとしないって自信あったのに」
「なにそれ、ひどくない?」
「でもキスは反則!しかも深いのなんて初めてなのに!」
「そうだろうね。それをわかった上でやったんだけど」
「ひっどー!」
「どうだった?初ディープキス」



またくいっとあごを持ち上げられる。気持ちよかったなんて言えるもんか。 ふん、と目を逸らすと臨也さんはははっとまた笑った。



ちゃんが言ったら、何回でもするけど」
「…も、いっかい」
「はは、やっぱり女って単純」
「うるさい、ばーか」



臨也さんの首に手をまわす。ああ、こりゃ完璧わたしは臨也さんに落ちた。 キスもハマりそう。いや、ハマっちゃった。本当に女って単純。







単純ないきものだ