「黒崎くん、おかえり」
「お、おお?ただいま…?」



黒崎くんが久しぶりに学校に来た。 笑ってそう言うと彼は少し目を泳がせて「ただいま」と言ってくれた。 今回黒崎くんが学校に来なかったのは過去最高記録だ。 彼の事情を知らない人は「最高記録だ」なんてのんきに言っていたけれど、 事情を知っているわたしは心配だったのだ (その事情をわたしが知っていることはきっと黒埼くんは知らない)



「長いこと何してたの?」
「い、いや旅行…?」



知ってる。旅行じゃないってことくらい。だってわたしは見たのだから。 彼が黒い着物を着て、大きな刀を振りかざして化け物を倒していた姿を。 きっと長いこと学校に来ないのはそれが原因なのだと思う(はっきりはいえないけどね)



「あんまり無理をしないほうがいいんじゃない?」



ふざけてそう言うと黒崎くんは笑った。お前誰だよ、俺の母さんかっつーの、と無邪気に。



「でも黒崎家は旅行が好きなの?最近多くない?」
「ああ、まあな…」
「今度お土産買ってきてよ」
「お、おう…」



少し意地悪く言ってみる。旅行じゃないのだからお土産なんて買えるはずない。 けれど黒崎くんが動揺してるのを見ると可笑しくて意地悪したくなるのだ。



「だからさ、無事帰ってきてね」
「…え?」
「ほら、飛行機とかでハイジャックとかあるかもしれないじゃん!」
「(あ、そういう意味か…)いやいや、日本ではねぇだろ」
「いや、油断してはならないよ」
「大丈夫だって、何言ってんだよ」



ははっと黒埼くんが笑った。わたしはこの笑顔が好きだ。 長いこと学校に来なくなる前、少し彼は元気がなかった。 けれど、今はいつもの黒崎くんである。ああ、よかったなと思った。 しばらく他愛のない話をしていると、ハッと何かに気付いたように黒崎くんは外を見つめた。 少しの沈黙のあと彼は席を立ち上がってこう言った。



「悪ィ、。俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
「急だねー。うん、いってらっしゃい」



彼はまた化け物と戦ってくるのだろうか。 手を振っていってらっしゃい、といえば彼は「すぐ戻ってくる!」と言って大急ぎで教室を出て行った。 無事に帰ってきて、黒崎くん。








おかえり 彼が帰ってきたのは、あれから30分後。今回は早くてよかった。 こっそりと席についた黒崎くんに「おかえり。長いトイレだったね」と言うと「まあな」と笑った。