彼が隊長になっても、何も変わらなかった。変わったといえば、羽織を着るようになったことだけ。 挨拶もいつもどおり。話をするときも敬語なんて使わなかったし、"真子"と呼んでいた。 けれど、それらを気に食わない人もいた。彼の部下たちである。 真子と話をしているとこそこそと聞こえる自分の悪口。 隊長に向かってあの態度はなんだ、とか呼び捨て、だとか(しょうがないでしょう!昔から仲いいんだから!) けれどわたしは気にしていなかった。どうぞ、勝手に言っててください。別にわたしは気にしませんから。



「いつからだっけなあー」



高台から足を出してぶらぶらと空を眺めながら昔を思い出す。 あの頃は、よかった。でも今は少し違う。真子と会う機会が少なくなった。 そっちから会いに来ないのなら、わたしから会いに行く。そう思って五番隊舎に行っても彼はいない。 わたしが行くとタイミングを見計らったようにサボるのだと、聞いた(どこからかの噂で) 彼は気にしていたのだと思う。自分の所為でわたしの悪口が言われているのだと (別に真子の所為じゃないのに)それから何年も経って。もうお互い自分から会おうとしなかった。 すれ違ったり、書類を届けに行ったりして会うと普通なのだが。やはり昔とは少し違った。



「あ」



高台から黄色い頭が見えた。真子だ。今日もだるそうに歩いてて、それが可笑しくてくすりと笑う。 またあいつはサボってる。いつからだろう。こうやって遠くからしか真子を見なくなったのは。



「なんや、こんなとこにおったんか」



ふう、とため息をつくと隣からそんな声が聞こえて。うわ!って驚いて相手を見ると、 副隊長のひよ里だった。びっくりした。ひよ里め、霊圧消して来たでしょ! そう言うとひよ里はケッとそっぽを向いてわたしの隣に座った。きっと彼女も休憩に入ったのだろう。



「なんや、真子のこと見とったんか」
「見てたんじゃなくて、見つけたんだよ」
「どっちもおんなじやアホ」



ひよ里も真子を見た。そして少しの沈黙のあと「まだお前ら仲直りしてへんのか」と仏頂面で聞いてきた。 仲直りって…。喧嘩とかは別にしてないけど。ただ、お互いが話さなくなっただけで。



「喧嘩やろ。何お互いに遠慮してんねん」
「遠慮ねえ…」
「真子はのためだとか言って話さへん。も真子のヤツが話さんのなら話さん」
「…だって、」
「だってもあらへんわボケ。昔に戻ればええんや。もう気にするヤツなんかおらん」
「わたしが戻ったって、真子が戻らなかったらさあ」
が戻らんかったら、誰が戻すんや」
「真子」



シンジィ?あのハゲは拗ねてんねや。勇気あらへんで戻せへんのや。 だからこんなだらだらとお互い遠慮してばっかなんやろ。千尋がいかな、一生このまんまとちゃうんか! ズバリ、とひよ里に言われる。うっ…、なんだこの子。流石真子ともわたしとも付き合い長いだけある。 でも、どうやって戻せばいいのか (会いに行けばいい?それとも昔みたいに戻そうとか言う?いや、それは可笑しい)



「ひよ里サーン!サーン!休憩終わりッスよー」



んー、と考えていると、下から浦原隊長の声が聞こえた。 ああ、そういえば今休憩中なんだっけ。このままずっと長居するところであった。 よいしょ、と立ち上がるとひよ里が「頑張りいや」とだけ行って階段を使わずそのまま下へと下りて行った。 …頑張ろう、かな。今日食事にでも誘ってみようか。話そうか。

階段を下りる前に、ふと先ほど真子がいた場所を見てみた。 すると真子が突っ立ってこちらをじっと見ているではないか!ええ!何やってるの、真子! 驚いた顔をして見ていると、彼がニヤッと笑った。そして口元が動く。 「」それはわたしの名前だった(たぶん、いや、きっとそう)







何を考えてるのかわからない