「思ったんですけどー」



今、このヴァリアーの屋敷には私たち2人しかいない。ルッスーリアは夕飯の買出しに行っていて、 スクアーロとベルは任務。レヴィは、休暇をもらっていてどこかに出かけている。 いつもならここで、ボスもいるのだけれど今日はどうしてか、いない。 だからたまにはのんびりフランくんと映画でも見ようかな、って古い棚から古い映画を取り出した。 それは恋愛ものの映画で、確かルッスーリアがオススメよ〜だなんて言ってたっけ。 それをフランくんと紅茶とお菓子をつまみながら見ていると、ふとフランくんがそう言ったのだ。



「うん?なに?」
「ベル先輩と先輩ってどういう関係なんですかー?」



それを聞いて、思わず飲んでいた紅茶を漫画のようにぶっと噴出してしまった。 慌てて机にこぼれた紅茶をふいているとフランくんが「汚っ」と小さく呟いたのは気のせいにしておこう。 こぼれたのは机だけだったらしく、この前買ったばかりのこの、ワンピースは汚れてなかった。 (よかった、これベルに買ってもらったから)



「どういう関係って…?幼馴染…だけど」
「キスしたり、デートしたり、ワンピースもらったりするのがですかー?」
「…フランくん、何故それを」



だけれど、幼馴染というのは間違ってはいない。 このヴァリアーに入ったのも、両親を殺して返り血だらけのベルが私のところへ来て「、来る?」 なんて言われたからだ。私は両親よりもベルの方が大事だったから、 簡単に家族と地位を捨ててベルと一緒にヴァリアーへ来た。 いつからかは覚えていないけれど、ベルとは普通にキスもするし、デート (と、いえるかわからないけれど)もしてるし、誕生日にはお互いプレゼントし合う (今年の誕生日には指輪をもらった)ようになった。



「複雑ですねー。先輩はベル先輩のこと好きなんですかー?」
「好きじゃなかったら、キスしないでしょう?」



好きじゃなかったら、キスもしないデートもしない。指輪なんてしない。ワンピースだって着ない。 私は、好きだからキスをするしデートもするし、指輪も毎日つけるし今日だってワンピースを着てる。 こんな関係だめだってわかっているけれど、逃げることができない。 だって逃げたら、彼を失ってしまうから。



「両思いじゃないんですかー?」
「私が一方的に好きなだけだよ。きっとベルは、友達以上恋人未満ってところじゃない?」



きっと私はベルにとって特別な女の子でもなく、 自分が暇を潰すための女の子のうちの"1人"に入るんじゃないかな?なんていうと、フランくんは 「先輩、自分で痛いこと言うんですねー」と言った。だって、ここでベルは私のことを好き、 だなんて思ったら自分に負けると思う。そんなに浮かれていて、ベルに「好きじゃない」って言われたら 私きっと私じゃなくなるわ、なんて冗談っぽく言ったけどフランくんは冗談に聞こえていなかったのか、 眉を寄せて「先輩、考えが重いですー」と言った。

それからは、お互い喋らずじっと目の前に写っている映画を見続けた。 この映画に出てくる男女2人は私とベルに似ている。 主人公は男のことを好きだけれど、その男とは恋人ではない。 だけれど、恋人がするようなことをしている。「この映画、私とベルの今までみたい」 そうクッキーを頬張って呟いた。



「けど、知ってますかー?この映画、最後に2人は…」



フランくんが何か言おうとしたときに、バンッとその部屋のドアが勢いよく開いた。 そのとき私は紅茶を飲んでいたので、またさっきと同じように驚いて噴出してしまった。 (ワンピースはまた汚れなかったけれど)てっきり、 任務を終えたスクアーロがいつものように入ってきたと思って 「スクアーロ!何回言ったらわかるの?ドアは静かに開けな…さいって…」 そう言いながら振り向くと、そこにはベルがいた。



「ベル?珍しいね?どうしたの?なんか急用?」
「お前、何にもわかってねー」
「はあ?何が?っていうか、痛い!」



ベルはズカズカと中に入って私の目の前に立ち、軽くだけどデコピンをされた。 急に、どうしたんだ、この子は。「何にもわかってねー」だって?何が?そう聞くとベルはこう答えた。



「王子は好きな奴以外にキスしねーし、プレゼントだって贈らねーし。せっかくの休みを好きな奴以外になんて使いたくねーし。指輪だって、好きな奴以外になんてあげーねし。お前馬鹿じゃね?」



「へ?」と思わず間抜けな声が漏れる。今ベルが言ったセリフには聞き覚えがある。 っていうか、むしろさっき私がフランくんに言った言葉そっくりである。 それに、どうしてベルはそんなことを知っているの?様子を見るに、ベルは息を切らしているから、 今任務に帰ってきたばかりだと思う。決して盗み聞きとかじゃないと思うし…。



「俺、幼馴染とか友達以上恋人未満だとか思ったことねーし。最初っからのこと好きだったし。 わざわざヴァリアー入るのに誘ったのは、たまたまとかじゃねーし。 以外だったら1人の方がマシだって」



お前、馬鹿すぎ。そう言われたあと、ベルの言葉が頭の中でリピートされてやっと理解して一気に 顔が真っ赤になった。あの、ベルが今私のことを好きって?好きな奴だって…?本当?そう問うと、 「ッシシ、王子嘘つかねーし」と笑った。そこで、ベル私も好きなんだよって言ったら、 「当たり前だし」と言われた。なんだか今まで悩んでて変なことを勝手に思っていた自分が馬鹿みたいだ。 ベルの言う通り、私は馬鹿だった。



「でも、どうして知ってるの?盗み聞きでもしてた?」
「ッシシ、音声型通信機から」
「音声型通信機?」



音声型通信機は、任務のときは必ずつけてろとスクアーロに命令されていた。 だけど、今私は休日だし任務ではないからつけていない。 フランくんだってもしつけていたとしても、休日なんだからスイッチは押していないもんね。 じゃあ、誰だろう?と思っていればベルが「こいつ」と答えた。 こいつ?とベルの指の先を見てみると、そこにはフランくんが。…ええ?



「千先輩すみませーん。通信繋がってたみたいですねー」
「…えええええ!?」
「ばーか。わざとだろ、絶対」
「もしかして、繋がってたってことは…み、みんなにも!?」
「っふ」
「うわああ!フランくん最悪だ!最低カエル!」
「いいじゃないですかー。ベル先輩とハッピーエンドなんですから」
「そ、そのことにはちょっと感謝するけれどもー…!」
「でも、先輩さっきこの映画が自分たちと似ているって言ってましたよねー」



ああ、そういえば映画のことを忘れていた。ふと映画を見ると、 終盤に差し掛かっていて映画の中の男女2人は「好き」って言い合ってキスをしていた。 そしてエンディングが流れる。あれ?もしかしてハッピーエンドに終わったのだろうか?



「この映画の2人も、最後は先輩たちみたいにハッピーエンドなんですよーよかったですねー」



本当にこの映画はまるで私たちを映しているみたいだった。私は、フランくんを見て小さく笑った。 横にいるベルが「ッシシ、じゃあ俺等もキスする?」なんて冗談で言ってきたから、 「しないよ」と答えてリモコンの停止ボタンを押そうとしたら、 それをベルに止められてちゅ、っとキスされた。 隣でフランくんが「そういうことは、2人きりのときにしてくださーい、この惚気者達めが」と 言っていたけれど、聞き流しておこう。







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