青峰はあまり人の名前を覚えていない。というより、覚えようとしない。 覚えても交流が多い人だけだ。だからクラスで名前を覚えているのは、 数人しかいない。フルネームで答えることができるのは、部活が同じである緑間だけかもしれない。 女子なんて一人も名前を言えることができない。



「バスケしてえ…」




今はテスト期間だ。当然、部活も休みになる。学校に来ているのはバスケのためだ、なんて思っている 青峰には、この期間が苦痛でしかなかった。そして放課後にテツでも誘ってバスケするか、と決めた彼は 黒子に伝えに行こうと、六時間目のチャイムが鳴ったのにも関わらず教室を飛び出した。 放課後誘いに行けばいい話なのだが、黒子はテスト期間になるとSHが終わったらすぐ帰ってしまう。 昨日がそうだった。放課後に誘おうと教室に行ってみれば黒子は既に帰っていた。 だから青峰がすぐ伝えようと思ったわけだ。
しかし、黒子は教室にはいなかった。移動教室だったのだろう。黒板には"次の生物、実験室!" と書かれていた。仕方ない。六時間目が終わるまで適当な所でサボって、チャイムが鳴ったら すぐ黒子に会いに行けばいい。



「バスケしてえー!」




どっかサボるところねぇかな、と思いながらとりあえず廊下を歩いているとそんな声が聞こえた。 立ち止まって階段を見てみると、そこには一人の女子生徒がいた。 なら俺とバスケしろよ、なんて言おうとしたが、声が高かったのでたぶん女だろう。 男と女なんてバスケが成り立つわけないと思っていた青峰は声をかけるのをやめた。 そして再び歩き出そうとすると、「うおっ」という声が聞こえたので また視線を向けた。

すると、女子生徒が階段で躓いて倒れた瞬間をばっちり見てしまった青峰。 彼女は恥ずかしそうに立ち上がってきょろきょろとあたりを見回す。 そして誰も見ていないと、確認して「まじ最悪!」と叫んでから階段を駆け上っていった。 彼女から青峰は見えなかったらしい。




「しましまはねえわ」




そんな彼女を見てから青峰はそう呟いて階段を下りていった。







六時間目