「へっくしゅん」



つい数日前は"暑い"と所々から聞こえ、半裸のクルーもそこらじゅうにいた。 しかし今は皆、何かを必ず羽織っていて"寒い"と口にしている。当然だ。次に向かっているのは冬島で もうその領域に入っているから寒いのである。寒くなるとクルー達はエースのまわりに集まる。 エースのまわりは暖かいからだ。でもクルー達だけじゃない。ナースもみんなエースのまわりに集まる。 クルー達とは違って、少し色気を漂わせながら。"エース"って甘い声で。



「大丈夫か、。お前そんな薄着でよー」



遠くでエースとナース達が一緒にご飯を食べているのを見ていると横にサッチが座る。 サッチとわたしの格好は大違いだ。彼は暖かいファーのついた上着を着ている。 お前を見てるだけで身体が震えるわ、とサッチは身震いした。 俺の貸そうか、と上着を脱ごうとするが慌てて「いらない」と断る。ありがたいけどそれじゃサッチが寒く なるし、と言うけれど優しい彼は「遠慮すんなって」って。だからわたしはわざとらしく 「お、おじさんくさいからやだ!」と叫んだ。その声は厨房で響いてしまって、クルー達がそれを聞いて ガハハ!と大笑いし、サッチは「おまえなぁ…」と落ち込み始めてしまった(ごめんねサッチ) サッチには後で謝るとして、もう見張りの時間だからと理由づけてわたしはさっさと厨房を出た。 恥ずかしかったのもあるけれど、もうエースとナース達を見たくなかったからだ(エースがこっち、見てた)



「へっくしゅん」



これで何回目だろう、と思いながら身を縮める。交代するときに"高台は寒いから気をつけろよ"と 言っていた忠告をちゃんと聞いておけばよかった。やっぱり甲板よりも高台は寒い。おまけに風も強い。 サッチには悪いけど、上着借りてればよかったかなぁ、と思っていると後ろからふわりと暖かい風がふいた。 あれ?と後ろを振り返るとエースがニッと笑ってそこにたっていた。



「よっ、
「エース?どうしたの?まだ交代じゃないけど?」
、寒そうだからな」



エースが横に座るだけで暖かくなった。そりゃ皆も集まるわけだ。 あったかい、と呟くとエースは意地悪く笑って「もっと暖かくしてやる!」とわたしの手を握った。



「つめてっ!?」
「エ、エース!?」



エースの手はすっごく暖かかった。けどわたしは手をぐいっとにひっこめる。 だけどエースは手を離してくれない。恥ずかしい。手汗かいてきちゃう…!(きっと顔は真っ赤) (ていうかなにしてるの!)(寒そうだから手握った!あったかいだろ?)(いきなりすぎる!) ていうかエースといるとドキドキしちゃうから、あまり近付かなかったのにこんなことされてはこまる!心臓が 破裂しそう



「風邪引くだろ!?」
「大丈夫よ!手はなして、なんか恥ずかしい!」
「でもお前これじゃ、」
「いいから!手汗もかいてきちゃったじゃない、ほらもう!いいから離して!」
「手汗くらい気にしねえって」
「いいから!」
「じゃあ、これでいいだろ!?」



ぎゃあぎゃあ言い合っているとエースは手を離してくれた。 離してと言っていたのは自分だけど、離されるとなんだか急に寂しくなってより一層寒くなった気がした。 「あーあ…」なんてガックリしてると、ガバッと後ろからエースが抱き着いてきた。 一気に身体中が暖かくなる(というか、もう恥ずかしすぎてあついくらい)



「エース!?」
「これなら手汗も関係ないだろ?」
「で、でもね!」



逃げようともがくけど、エースはさらに力を強めて抱きついてきた。 耳元で「大人しくしろって」なんて囁くから、もうわたしは身体中の力が抜けてエースに寄りかかる 状態になってしまう。



、全然こねーんだし。俺の近くにいれば暖けぇのに」
「だって(ドキドキするし、それに)ナースいるから近づけないもん。ナース達にもこういうことしてるの?」



振り向いて聞いたら、エースはぽかん、という顔をした。「どうなのよ」って再び聞くと次にガハハ!と 笑ってわたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。笑い事じゃないんですけど!



「こういうことするのはだけだって!」
「ほんとに?」
「おう。だからが来てくれたら俺はのところにいく」
「ナースがいても?」
「もちろんだ。ああ、じゃあ俺がもうずっとのそばにいればいいのか!」



な!と笑ったエースはすごく素敵だった。まだ心臓はドキドキいっているけれど、さっきほどじゃない。 むしろ心地いいくらいだ。思い切ってエースの手に自分のをからめてみるとエースはぎゅっと握り返してくれた。



「エースを独り占めしちゃうね」
ならいい」
「次の島降りたら、上着買おうと思ってたけでもういらないかもね」
「おう。俺が暖めてやるからな」



二人で笑い合うけど、ハッと気付いたようにエースは慌ててわたしに言う。



「いや、やっぱり風邪引くのは困るから上着もちゃんと買え」



可笑しくて、お母さんみたいっていうとエースはむっとした。







手を握り返した
(サッチがお前に上着貸そうとしたときは俺びっくりしたんだからな) (なんで?) (サッチの上着よりも俺のほうがあったけぇんだからなんで俺のところにこねぇんだよって!)