モビーディック号は大きい。もちろん、中も広い。部屋もいくつもある。 船員も数え切れないくらいいる。エースはまだこの白ひげ海賊団の一員になったばかりだ。 と言っても今日でちょうど1ヶ月は経つのだが、まだまだ船員の顔と名前が一致しないし、 今日初めてその顔見ましたという人もいる。



「お〜エース!今日で1ヶ月じゃねぇか。慣れたか?」



マフィンを頬張りながらエースの前にサッチが現れた。口にはたくさんのマフィンのカスがついている (サッチ汚ねえよ…ガキみてぇ)(ガキはお前だろ?)お前最初は猫みてぇだったよなあ。 威嚇してよお。サッチが懐かしいように話す。エースもこの船に乗った頃を思い出して思わず苦笑する。 あの頃はこんなにこのクルーたちと仲良くなるなんてこと予想もつかなかっただろうな。 エースはそう思った。



「そのマフィンうまそうだな。サッチが作ったのか?」
「ナースが作ってくれたんだ。欲しかったら医務室行けよ。まだたくさんあったと思うぜ」



さっきからサッチが食べているマフィンは見た目はごく普通なのだが、 先ほどからサッチはおいしそうに食べている。 ちょうど小腹も空いたし、もらおうと思ったので聞いてみると作ったのはナースらしい。 別にそこまでしては食べたいとは思わなかったエースだが、 サッチが「丁度よかったもらいに行くついでに俺の分ももう1つもらってきてくれねえか」と 頼まれたので医務室に向かうことにした。



「…あれ?」



だが、医務室に入っても誰もいなかった。 ああ、そういえばさっきビスタの隊がこの船に帰ってきて怪我してる奴結構いたんだっけ。 それの手当てにナースたちは行ってるのか。 エースは引き返そうとドアノブに手をかけるがふと奥から「はいはい何の用事ー?」という声が聞こえた。 なんだ、いたのか。



「怪我したの?」



マスクをしたいつも見るナースよりはちょっと小柄な女性が出てきた。 彼女からはいつもナースたちから匂ってくる香水の匂いもしなかった。 あれ?こんな奴いたっけ?けれどなんだか懐かしい感じがした。



「違うんだ。サッチがマフィン食っててよ」
「ああ!マフィン?もしかして欲しい?」



とりあえず座って!と彼女はエースは座らせまた奥へ入っていった。 数分したあと、マフィンと牛乳を持ってきた。そしてエースの向かいに座った。 ちょうどよかった、小腹空いてたの。どうせなら一緒に食べよう?と彼女は笑った。 けれど、少しムッときたのはマフィンと一緒に出された牛乳のことだ。 彼女はコーヒーなのに、自分はどうして牛乳なのだ、と。



「なんでナースはコーヒーで俺は牛乳なんだよ…」
「あれ?コーヒー飲めるようになったの?」
「…は?」



エースはむ、と不機嫌な顔をした。確かに、昔はコーヒーは苦くて嫌いだった。 けれど、大人になってもコーヒーが飲めないようじゃ、ださい。 今でも苦手だが意地を張って飲んでいる。そのあと、こっそり牛乳を飲んで口直しをしていた。 けれど、自分がコーヒーが苦手なことなんてくらいしか知らないはずだ。 ルフィやマキノさんの前では平気な顔のふりをしていた (それを見てはケラケラ笑ってたなあ…)そう、知っているのはだけ。



を知ってるのか?」
「…失礼ね。幼馴染の顔を忘れるなんて」



はあ、と彼女はため息をついた。 けれど気付いたように「ああ、そういえばマスクしてるんだっけ」薬品を扱っていたから… とマスクを外した。そのマスクを外したときに見えた顔にエースは驚いた。



…じゃねえか!」
「久しぶり、エース。1ヶ月もよく気付かなかったわね」



ショックだった。目をあわせたことも数回あったのに、すぐ逸らしてしまうし。 そうは言う。だがエースはそんなのことを聞いてるはずもなく、ただ驚いているだけだった。 何故、がここへ?雰囲気からすると、自分よりは結構前にここへ来たということになる。



「エースが島を出て行ったあと、わたしもすぐに出たの。それから偶然白ひげに会って」



ナースという形でこの船に乗せてもらったの。白ひげの船に乗っていればエースに会えるかなと思って。 そう微笑む彼女は昔と変わらなかった。どうして今まで気付かなかったんだろう。 こうしてじっくり見るとは全然変わってない。顔も、身長も、性格も、声も。 ただ、髪が伸びただけ(だと思う)エースは上から下までじろりとを見た。



「どう?色っぽい?昔は泥とかつけてたからこういうの新鮮でいいでしょ?」
「いや…正直とわかっていなくてもこのナース他のナースとちょっと違うなと思った(胸ねぇし)」
「え?何が?可愛いってこと?」
「……いや、小さいなと思った(身長もそうだけど胸とか。あと色気ねぇ)」
「あ、そう(こいつ胸ないとか絶対思ってる!)」
「けどな、も女になったな。綺麗になった」



昔は顔に泥をつけて、島を駆け回ってたのに。笑ったときも、男の子みたいにニシシと笑っていたのに。 エースは昔を思い出してそう思った。そういえば、あれから何年経つのだろうか。



「ありがとう。エースもかっこよくなった」



ほら。今の笑った顔とか綺麗だろ?少しだけドキドキしたエースは気持ちを紛らわすために マフィンをがぶり、と食べた。あ、懐かしい味。そういえばマフィン作るの得意だっけ。 エースは残りのマフィンを全部平らげた。(サッチに頼まれてたけどまあ、いいか)