5時間目の国語は非常にやばい。 ただでさえ、お昼終わってうとうとするっていうのに、国語は教科書を読んでばかり。 いつもはうるさくて、先生の間でも私のクラスは「動物園」と呼ばれているこのクラスも 流石にこの時間は静かである。 「肉ー…」 隣の席のエースももちろん寝ている(と言ってもいつものことだけれど) さっきから寝言で肉やら、ルフィやらと呟いている。 一番後ろの席は教室が見渡せるけれど、ほとんどの人が顔を伏せていたりしてる。 「ケースは、弟思いで誰からも好かれている奴だった___」 今日の国語は小説。先生が先ほどからずっと文章を読んでいる。 この話に出てくる「ケース」という人物はすごくエースに似ている、と思った。 弟思いで、誰からも好かれていて、責任感があって、優しくて。 (ただ、エースはちょっと抜けてるところがあるけれど) おかしてく、くすりと笑うと文章を読んでいた先生の声が止まって「、どうしたー」と聞いてくる。 慌てて「何でもないです」と答えると、一番前の席のサッチがむくりと起き上がる。 「…もう一回寝よう」 「アホか。授業だぞ。他の奴らも起きろー!」 もう一度寝ようとしたサッチの頭を教科書でバン、とたたいて先生は叫んだ。 その声で起きたみんなはだるそうに起き上がって教科書を開ける。 ただ、一人。隣のエースはまだ幸せそうに寝ているけれど。 「ケースは弟のために働くようになった」 みんなが起きたのを確認した先生は、また文書を読む。 そのときに、所々から「このケースって奴、エースみてぇ」「もろエースじゃね?」なんていう声が聞こえる。 それがおかしくて、またくすくす笑ってると再び先生に注意された。 「そんな彼女に、ケースは恋をしたのであった」 トン、と先生は教科書を教卓の上に置いた。 「ここで、問題だ。ケースは誰を好きになったか」 この物語には、ケース以外に、弟と女性3人が出てくる。流れ的には、きっとケースが恋した相手は花屋の同い年の女の子、クリス。 先生はあたりを見回して、ふとある一点に視線を止める。視線を辿ってみればそこにはエース。 (もちろん、まだ幸せそうに寝ている) きっと、先生はエースを当てるつもりだろう。私はエースを起こそうと肩をトントンとたたく。 「エース、起きて。絶対当たるって」 「…あー?」 「ほら、早く!」 「んだよー…もう朝かよ」 「違うって!寝ぼけてないで!ほら、先生が……」 「エース、答えてみろ」 見てる、という声と先生の声が重なった。エースは「今授業中だったのかよ…」と頭をかいて呟く。 そして机の中をガサガサとあさって、教科書を出しパラパラと今読んでいるページを探す。 「えーっと」 「もう一度言うか?ケースは誰を好きかという質問だ」 「はあ?授業中にどんな質問してんだよ…。そんなモン、決まってんだろ!」 探していた手を止めた。 今まで寝ていたのに、何を言ってるんだろう、エースは。 わかるわけがない!(どうせ、適当に答えるんでしょ) 「に決まってんだろ!」 しん、と静まりかえった教室に響く。 …はあ?ちょ、え!?何言ってんの、エース!?!? 「おい…エース。俺はケースが好きになった人を答えろと言ったんだぞ…」 「いや、だから俺の好きになった奴がだって。ていうか、俺等付き合ってるし!」 「教科書に出てくるケースだぞ?」 「え、俺教科書に出てくんの?」 さっきまで静かだった教室に笑いが起こった。 エースは完全に寝ぼけてる。というか、どうにかしてほしい。 寝ぼけるのはエースの勝手だ。だけどそこにどうして私の名前が出てくるのさ! 「告白の授業じゃねぇんだぞ…」 「先生が聞いてきたからだろ?俺は素直にって答えただけだ。しかも告白じゃねえし!両思いだ!」 「だってよ、」 はあ、とため息をついてあたしを見てきた。エースは私を見て「お前何赤くなってんの」と言う。 赤くなるのも当然だ。何を堂々と好きだの、付き合ってるだの授業中に言ってるの! きっとエースは、ケースの「ケ」を「エ」と間違えてるんだと思う。 どんだけ寝ぼけてんのよ、馬鹿。なんて言いたいけど、恥ずかしくて顔が上げられない。 (よかったな、!これで先生も公認のカップルだぜ!とか言ったサッチは後でシメる) 「すいません…」 とりあえず、私は謝った。 ![]() あのあと、クラスではこの物語の、「ケース」を「エース」。 「クリス」を「」と呼んで授業を進めることになってしまった。 (みんなわざわざ教科書にも書き直してるのよ!) |