「なあ、木陰」 「ん？なあに」 「宿題…終わった？」 練習中にスコア表を書いてると、練習を終えて休憩をしに来た 謙也が突然そんなことを言う。 あたしは「そんなもの7月中に終わらせたし」と自慢げに言う。 「はあ！？あの大量の宿題をか！」 「まあねっ」 「お前科学苦手やん！あの難しい問題とかどうしたん！？」 「実は白石と宿題一緒にやってたんだー」 ねー、白石っ！と近くにいた白石に言うと、せやなって笑った。 お前等俺も誘えや！！と謙也は文句を言う。 誘ったけど、断ったのは謙也じゃん、と逆に言い返すと言葉をつまらせた。 覚えてないのね…。 「けど、まだ大丈夫じゃない？謙也は浪速のスピードスターなんだから」 チャチャッと終わらせなよ、というと謙也にお前何言っとるん？と言われた。 「今日何日やと思ってるん？」 「え？にじゅう…さん？」 「何言うとんねん、木陰。今日は27日やで」 白石の言葉にあたしはびっくりする。 この前登校日が10日で、まだまだ夏休みはこれからやあ！ってユウジと言ってたのに。 あれから2週間くらい経ったの？うそだあー。 「夏休みになると、日にちの感覚なくなる奴おるよな」 「どうせあたしですよおーだ」 「けど、もう3日しかないねんなあ…」 あたしと謙也はその言葉を聞いて、沈黙する。 ああ、そういえば、最近毎日鳴いていた蝉の声が聞こえなくなったような気がする。 みんなでうるさい、蝉の声だけで暑く感じる、なんて文句を言っていたけれど、 急に聞こえなくなると、寂しい。 今はテニスのボールが地面に落ちる音と、ラケットにあたる音しか聞こえない。 「みんなで、海行こうって言ってたのになあ」 「スイカ割りしようって言ってたのにね」 みんなでやろうって言ってたこと、まだしてない。 まだ、終わらないでよ。 夏が終わったら、あたしたちもこの部活、卒業しちゃうんだから。 まだまだみんなと一緒にやりたいこと、あるのに。 「夏って、案外短いんだね」 「せやなあ…」 「あっという間やん」 今日から夏休みやあー！ってみんなで騒いでいた始業式が昨日に感じる。 まだ1ヶ月。まだ3週間。まだ1週間。もう3日。 長いようで、短いようで、あっという間の夏休み。 「何言うとるんですか、アンタら」 「ざ、財前！？」 「夏休みが終わったって夏が終わるわけとちゃいますやん」 「そりゃ、そうだけど…」 「9月かって、まだまだ暑いやろ」 「っていうか、まだ3日もあるやん！！」 「せやっ！ユウくんの言う通りやわ♪」 「うぬ。部活かて、午前中やさかい」 「午後からは空いとるでな」 「ワイ、みんなと遊びたいわあー！」 いつの間にか、あたしのまわりにはみんながいた。 そうだよね…。まだ終わってないもんね！ まだ3日もあるんだよね！充分に楽しまなきゃいけないよね！ 「明日、みんなで海行こうか」 にこっと笑ってそう言ったのは、部長の白石だった。 みんなもにこにことあたしを見る。 あたしも笑って「うん！」と元気良く答えた。 夏って案外、短いんだね 夏休みも残りわずか（10.8.25）