「夏っていったらさ、やっぱ冷たくておいしいカキ氷だよね」
「せやなっ!けど俺やったらスイカやな!」




部活後に、みんなでどこか食べに行こうって話になった。
行き先は決まってないけれど、とりあえず歩いていれば
食べるところが見つかるだろうと、アバウトな考えで
あたしたち四天宝寺のテニス部メンバーは歩いていた。

その途中で、みんなと『夏の食べ物といえば?』という話になった。




「カキ氷いうたら、お前等いつも何味しとる?」
「そう言う、ユウジは何味?」
「やっぱメロンやろ!」
「アタシはブルーハワイ味かしら♪」
「俺はレモンやな。髪と一緒な色やし☆」
「ワシは…いちご味やな」
「師範がいちごって何か可愛いんやけど!」
「ワイ全部好きやー!千歳もやろ〜?」
「そうばいね〜。どれもよかと〜」
「あたしやっぱりいちご味♪」
「俺もいちごやな」




それぞれ好きな味を言う中、1人眉を真ん中に寄せている者がいた。
さっきからカキ氷の話に全然入ってこない、光だ。
そういえば、この前謙也と光とあたしの3人で商店街へ回ってる時、
あたしたち2人はカキ氷食べてても、光は食べてなかった気がする。
むしろ、今まで光がカキ氷食べてる姿なんて見たことないかも…。




「光ってカキ氷食べないの?嫌い?」
「別に嫌いとちゃいます。けど好きでもないんで」
「カキ氷は暑いときに食べるとめっちゃええで〜」
「俺、暑い時にはぜんざい食うとるし」




その光の一言で、みんなが一瞬凍りついた。
ぜんざい…?それってあの、あんこともちが一緒に入ってるやつ?




「あっりえんわ!ぜんざいとかなんやねん!」
「もちとか正月やろ、正月!!」
「あんこ嫌や〜!」
「ぜんざいもうまか〜」




謙也の言うとおりかも…!もちってやっぱ正月に食べるものだよね?
確かにぜんざいはおいしいけど…、こんなに暑いときにはやっぱりカキ氷でしょ。
あたしの横で「ぜんざいとかおっさんやん…」とぼそぼそと呟いてる謙也に
光は思いっきり足を踏んだ。その瞬間謙也は「いってー!」とか叫びながら
しゃがんで踏まれたところをさすっていた。




「食べたことないからそう言えるですよ」
「せやなぁ、ちょうどそこに甘味屋あるし寄ってくか?」




白石が指指した先には、甘味屋があった。
ユウジや謙也は「カキ氷の話しとったで、めっちゃカキ氷の気分やったんやけど…」と
ぶつくさ言いながらも、その甘味屋に入っていった。


そして、席に座るなりみんなの承諾を得ずに光はぜんざいを8つ頼んだ。
数分後、1人ずつ目の前にぜんざいが置かれた。




「なんか見た目めっちゃ冬って感じなんやけど」
「そうですか?」
「やっぱあずきともちっていうと冬のイメージあるわな」
「まぁまぁ、財前が言っとるんやし、食べてみよか」




みんなで「いただきます」と言ってから、それぞれぜんざいを口に入れた。
その瞬間みんな声を揃えて「おおお」と財前を見る。




「めっちゃひんやりしてうまいな」
「もち、うまか〜」
「全然夏でもいけるやん☆」
「さっきまでぜんざい否定しとった自分が馬鹿らしいわ〜」




どうやら、ぜんざいは好評のようだった。
謙也も一氏もどんどんぜんざいを口に運んでいった。
金ちゃんなんか、もう全部食べちゃってもう1個頼もうとしてる!
(白石がすぐ止めたけれど)




「ほんっまうまいわ〜」
「あずきが甘くておいしいわね☆ユウくん、あ〜んっ」
「あ〜んっ。小春からもらって更にうまいわあ〜」
「先輩等うるさいッスわあ…」




なんだかんだ言って光もぜんざいを食べ終わっていた。
そんな光に「好評のようだよ!よかったね」と一言言うと、
「別に」と素っ気無い返事をした。素直じゃないんだから。
自分が好きなものがみんなに好評なんだから、嬉しいはずだよ。




「あ、そういえばさ。この前雑誌に載ってたんだけど
  ぜんざいのカキ氷あるらしいよ?新しくできた甘味屋で」
「ぜんざいはぜんざいだけで食べるのがおいしいんです。
  カキ氷にするとかありえへんわ。ま、少しは興味ありますけど」
「じゃあ、今度食べに行く?」
先輩と2人だけっていうなら行きますけど」
「うん、いいよ」




あたしも興味あるし、今度行こうか。
光と約束をしたあと、謙也がその話を聞いていたのか
2人で行くん!?ずるいわ!俺も行きたい!!とずっと言ってきた。
そんな謙也に光は「ほんま、うざいッスわ」といつもの
うんざりした顔で言ったのであった。



夏のたべもの
あのあと、部活帰りにぜんざいを食べるっていうのがテニス部のブームになった




(10.08.14)