朝登校したときに何故かまわりからの視線が痛かった。 わたしが通ると女の子たちはひそひそとわたしを見ながら何か話してる。 最悪なのは、女の子ということ。女の子たちにうらまれること、何かしたっけなあ。



「おはようさん」



下駄箱で靴を履き替えてると、白石くんが隣に来た。こんなに朝早く彼とこの場所で会うのは珍しい。 だって彼は朝練をしているからだ。朝練は?って聞くと、どうやら今日はないみたい。 でも、朝練ないのにこんなに朝早く来るなんてえらいね、なんて言うと彼は笑って「いつものクセやねん」って 笑った。



「昨日、親大丈夫やった?」
「うん。大丈夫だったよ〜」



実は昨日、委員会があって白石くんと同じ保健委員であるわたしは一緒に委員会の仕事してたんだけど いつの間にか7時になってて。まだ春先だから暗くなるのは早くて7時でも外は真っ暗だった。 一人で帰れるって言ったんだけど白石くんが危ないからってなかなか引き下がってくれなくて、 最後には負けて送ってもらうことになったのだ。白石くんに送っててもらうなんて、お姫様気分だった。



「それにしてもさん、いつもあんな距離歩いとるん?」
「え?遠い?」
「女の子はちょっとキツい距離ちゃうんかな〜思て」
「ん〜、入学当時はキツかったけど今はもう慣れたかな」



そんな会話をしながら教室へ向かってる途中も、まわりの視線は痛かった。 まあ、白石くんと並んでりゃ、女の子たちが注目するのもわかるけど。 けどその中で、ひそひそ話が聞こえた。



『え、やっぱマジなん?』
『白石くん今まで彼女作ってなかったのに〜』



…ん?白石くんに彼女?



さん聞いとる?」
「えっ!?あ?うん、彼女?」
「聞いてなかったやろ〜。ちゃうって。今日の体育やって」
「あ、ごめん。そうだったね」



聞き間違いかな。白石くんに彼女できたみたいな話に聞こえたんだけど。 白石くん…彼女できたのかな。ちらり、と白石くんを見ると「なんや?なんかついとる?」って 言ってきたから慌てて「なんでもない」って言って目を逸らした。 それからすぐ教室に着いたら、ざわざわしてた教室がわたしたちが来た瞬間静かになった。



「やっぱ噂本当やったんやな〜!」
「おめでとー!白石!」
ちゃんもやりよるなあ!」



静かになったと思ったら、わーって盛り上がって拍手された。 は?なになに。なにがあったの。おめでとうってなに!?わたしなにもやってないけど!!!? 白石くんも驚いて顔して「何のことやろ」なんて言ってる。



「白石くん、なんか覚えある?」
「ないなぁ。さんこそあるん?」
「ないねー…うわっ」



何かしたっけ、なんて思い出してると後ろから思いっきり押されてわたしは前に倒れかけた。 けどすぐに白石くんが支えてくれて倒れることはなかったけど、 またそこで「おー!」とか「きゃー!」だとか言われた。一体なんなの! それに今押してきたやつ誰!キッと睨みながら教室に入ってきた人物を見るとそこには謙也がいた。



「謙也…!」
「おー!噂はまじやったんやな!ほんま驚きやわ!けど俺は祝福するで!」
「だから、その噂ってなに!?(ていうかその前にまず謝って!)」
「は?だから、お前等付き合っとるんやろ?」



付きっ…えええ!?誰と誰が!?って聞くと「いや、と白石に決まっとるやろ」ってけろりとした顔で 謙也に言われる。白石くんも驚いてる。 まず、わたしと白石くんが初耳なのにどうしてそんな噂がたってるの…! 別に告白したワケでもないし、そんな素振り一度もしたことないし…!



「そんな知らんフリしても無駄やで〜昨日の目撃したヤツいっぱいおるんやし」
「昨日?」
「昨日一緒に帰ってたやろ〜!白石の家反対方向なのになあ!」



…もしかしてあれか!昨日委員会で遅くなって送ってもらった…! ただ一緒に帰っただけなのにどうして半日でそんな噂がたつのかな…! それ違うよ!なんて言おうとしたらチャイムが鳴って先生が来てしまったので、 おとなしく席に着くことしかできなかった。でも、どうしよう。 こんな奴と付き合ってる噂立てられて白石くん迷惑だろうな(わたしにはちょっと嬉しいんだけど…!) 前の席にいる白石くんの背中をつんつん、ってしたら彼は「ん?」って振り向いてくれた。



「ごめんね、白石くん。昨日のせいで変な噂たてられちゃって…」
「こっちこそ悪かったなぁ。無理やり俺が送ったんやけど、こんなことなるとは思わんかったわ」
「な!なんで!白石くんは謝る必要ないでしょ!それより噂早く弁解しないと」
「そのことやけどなぁ、さん」
「ん?」


「噂を本当にせぇへん?」



にこにこして白石くんが言ったのを覚えてる。 それから「俺、さんのこと好きやし」って言ったのもちゃんと覚えてる。 もちろん、わたしだって言ったよ?だから噂も弁解はしなかったの。だって本当になったんだもの!








噂を本当にせぇへん?