![]() 教授が「明後日レポート提出締め切りだぞー。まだ出してないやつはー…」 と名前を呼び出す。レポートなんてものを出した覚えがない私は当然名前を呼ばれる。 ユウは「まだ出してないの?珍しいね」と聞いてくる。 レポート、出せとか言ってたっけ? 「言ってた。あーそのとき愛しの誰かさんとメールしてたかも」 「えー?ユウ言ってよ!」 「あんたが惚気てるのが悪い。どうする?明日付き合おっか?」 明日は何も授業が入っていない。ユウと私はどれも一緒の授業をとっているので、 当然ユウも明日は何も入っていない。だから、レポートを手伝ってくれると言ってくれた。 ありがたいけど、明日は涼太とデートをする予定だ。数少ない涼太の休みで、 ずっと前から互いに明日をずっと楽しみにしていた。 それを、私の不注意でキャンセルするわけにもいかないし。 レポートは今日頑張って仕上げる、とユウに言った。半日もあれば、できるレポートだし。 「ごめん。私、今日はバイトだわ」 「ううん。いい。もともと自分一人でやらなきゃ行けないし。ありがとう」 「どこでやるの?」 「大学のパソコン室借りよっかな」 それからユウはバイトの時間があったのですぐ帰ってしまった。 私はそのままパソコン室に行く。すると一人先客がいた。 しかしその人物に見覚えがあって思わず「あ」と声を出してしまう。 そこにいたのは、高校が一緒だった森山先輩だった。 (涼太と同じバスケ部だったから、少し関わりがあった) 彼も私を見て「ちゃんじゃん!」と笑顔を振りまく。 「なに?俺に会いに来たって?嬉しいね」 「毎度勘違いやめてください。レポートやろうと思って来ただけです」 「俺もだよ。今日まででさ」 「森山先輩も意外と抜けてるところあるんですね」 「否定はしないよ。最近もバスケばっかだから」 「涼太も忙しいのに、バスケは楽しいからっていつもやってます」 「あれ?まだ付き合ってるの?」 「森山先輩いつもそればっか!」 「嘘、冗談だって」 最初は話をしていたけれど、しばらく時間が経つとお互い静かにレポートに取り組むことにした。 黙々とやって気がつくと五時だった。あと一枚だ、なんて思っていると森山先輩が立ち上がる。 どうやらレポートが終わったらしい。背伸びをして「ちゃんは?まだ?」と問うてくる。 あと一枚です、って答えると彼はまた座った。帰らないのかな。 「ちゃんこの後ご飯どう?」 「何度言ったらわかるんですか。私は涼太がいるんで!」 「残念。でもちゃんが終わるまで待つよ。外暗いでしょ」 「大丈夫です。ここからすぐのとこにマンションあるんで」 「ああ、言ってたね。黄瀬と同棲してるんだって?」 「そうです!!」 冷たいなあ、ちゃん。とくすくす笑いながら森山先輩は再び立った。 そして「もうすぐ雨降りそうだから、早めにね」と言ってからパソコン室を出て行った。 彼といると疲れるなあ、なんて思いながら私は再びレポートに取り掛かる。 そしてあと一枚はあっという間に終わって時間はまだ五時半だ。 これなら夕飯の材料も買いに行ける時間もあるな、と思って窓の外を見る。 すると先ほど森山先輩が言っていた意味がわかった。雲行きが怪しい。雨が降りそうだ。 私は慌ててパソコン室を出た(一回帰って傘持って行ったほうがいいかなあ) けれど、大学を出ようとしたところで雨が降り出してしまった。 それも小雨どころじゃない。大粒の雨で、一歩外に出ただけでずぶ濡れになりそうだ。 いつも天気はチェックしているのに、今日に限って朝忙しくてチェックしてなかった(最悪) 傘を差して帰る子が羨ましい。ちょっと待ってみるか、と空を見ても当分止みそうにない。 どうしようかと思ったときにふと頭に浮かんだのは涼太だった。 でも今日、仕事って言ってたし。きっと今も仕事中だと思う。電話、かけてみようかな。 電話の履歴にある黄瀬涼太の名前をじっと見つめる。仕事の邪魔はしたくないし、と思っていると 「ー」と涼太の声が聞こえた。 びっくりして携帯から視線を上げると、そこには傘を持った涼太が立っていた。 「涼太?あれ?どうしたの?幻覚?」 「何言ってんスかー。迎えに来たんスよー」 「仕事は?もう終わったの?」 「ついさっき。今日はこの近くで撮影だったんスよ」 それで、ちょうど終わったときに森山先輩から電話きて、残ってるって話されて、 もうすぐ雨降るから迎えに行ってやれって教えてくれたんス!って涼太は言う。 そっか。森山先輩、涼太に言ってくれたんだ。さっき、ひどいこと言って申し訳ないなぁ (今度お礼言っておこう) ありがとう、って言って差し伸べている手をとって二人手を繋いで歩き出した。 涼太が持っているのは私のピンクの花柄の傘だ。それを差して涼太はここまで来たかと思うと 可笑しくて。笑っていると、涼太がわかったように「これしか家になかったんスよ」と答えた。 「二人きりだったんスか?」 「うん」 「うわ!まじか!森山さんに何もされてない?」 「まだ付き合ってんの?とかは言われたよ」 「うわ、ひど」 「あと食事誘われた」 「うわ、最低ッスね。今度、俺の女に手出すな、とか言っとくッス」 「先輩にそんな口たたけるの?」 無理かも、そう彼は即答して私はため息をつくしかなかった。 それからさっきの涼太の発言を思い出した。 そういえば、家にこの花柄の傘しかなかったよね(本当に涼太は何も持ってないよね…) 「今から夕飯の材料と傘買いに行こう。付き合ってくれる?」 「もちろんッス。あーでも傘はいいんじゃないッスか」 「またこういうことになるでしょ」 「いいじゃん。迎えに行くよ」 「嬉しいけど、予定合わないときだってあるの」 「えー」 「えー、じゃない。これ、色違いで青色もあったからそれ買ったげる」 「花柄ッスか!?」 「お揃いだよー。モデルなんだからなんでも似合うって」 「ひどいッスよー」 そう言ってたけど結局同じ花柄の青色の傘を買った。 早速帰りに使おうと思ったけど、涼太がこれでいいじゃないッスかって 青色の傘を広げないで、ピンク色の傘を広げてまた二人相合傘をして家まで帰った。 TOP |