![]() 八時くらいになって、お風呂に入ろうって話になった。 私はゆっくり入りたいから、涼太先いいよって言うんだけど 「レディーファースト」なんてこれまた意味がわからないことを言う。 お風呂入るのにレディーファーストとかないの、って背中を押すと涼太は少しだけ笑って 「じゃあ、一緒に入る?」って冗談を言う。私は「断固拒否!」と言って涼太を浴室に突っ込んだ。 この前お風呂に一緒に入ってひどいめにあったので、もうあんな恥ずかしい思いは嫌なのだ。 涼太は長時間入るタイプじゃないので三十分くらいで出たらしい。 浴室から「次いいッスよ!」って声が聞こえた。 はーい、って返事をしながら浴室に入ると、鏡の前で髪を乾かしてる涼太。 上半身はまだ裸で「もー!早く着て!」って目を隠すと「見慣れてるでしょー」って けらけら笑って鏡越しで私を見た(見慣れるわけないっつーの!) 「涼太早く出てよー」 「俺に構わず脱いでもらっていいッスよ」 「そんなことするわけないでしょ。涼太が出てくれるまで脱がないよー」 ほらほら、とドライヤーの電源を切りコンセントを抜いて涼太に渡すと えー、と文句を言いながら涼太は出て行ってくれた。 そしてまた遠くでぶぉーっとドライヤーの風の音が聞こえた。 *** 「上がったよー」 そう言いながらちょこん、と涼太の隣に座る。 涼太ははい、とさきほどのドライヤーを渡してきた。もう、自分で戻してよ、と思いながらそれを 受け取ってまた浴室に戻り、もとあった場所に置いて再び涼太の隣に座る。 するとしばらくして「つめた!」と涼太が悲鳴を上げた。私の髪から雫が涼太の腕に落ちたみたい。 「ー、俺ドライヤー渡したッスよね?」 「うん。ちゃんと戻してきたよ」 「そうじゃなくって!も髪ちゃんと乾かして!」 「大丈夫。自然乾燥」 「ダーメ!せっかくの綺麗な髪が傷んじゃうッスよ!」 ほら、と私を連れて浴室に来る。私の手からタオルを取るとガシガシと ふいてから、ドライヤーのスイッチを入れた。 私は昔から自然乾燥だった。まわりは髪が傷む!とか言うけれど 私はそれに悩んだことがない。 でも涼太と付き合うようになって、何回かお泊りをしたことがあるけれど どれも涼太は「ダメ!」と言って髪を乾かしてくれるようになった。 でも、私は涼太に髪を乾かしてもらうのが好き。心地よい。 「わざと?」 「なにがー?」 「いくら言っても乾かさないし。いつも俺が乾かしてるッス」 「んー。自然乾燥が当たり前になってるのもあるけど」 「けど?」 「涼太に乾かしてもらうの好きだから。気持ちいい」 「もー、そんなこと言われたら甘えさせたくなるっしょー」 ええい、と涼太が私の頭をかき回した。 別に涼太が気にしないでおけばいい話じゃん。 でも涼太は美容とかそういうのは女である私以上に気を遣ってるから 気になるんだろうねー。 「あ」 乾いて髪を梳かしていると涼太が私の頭に顔をくっつける。 くすぐったくて、どうしたのって聞くと嬉しそうに涼太は言った。 「と俺の髪、同じ匂いッス」 「同じシャンプーだもん。これから毎日だよ」 「いいッスね、これ」 「えへへ。私もかぐ!」 しゃがんで、しゃがんで!って涼太にちょっとしゃがんでもらった。 それから頭をふりふりと振ってくれて、そのときにふわりとシャンプーの匂いがした。 私と同じ匂いだ。えへへ、って笑っていると涼太は「隙あり」って 私の唇にキスをした。私は顔を真っ赤にして「なんか幸せだね」と涼太に 抱きついて顔を隠した。 「俺もッス」 涼太も抱きしめてくれて、頭に小さなキスをひとつしてくれた。 TOP |