「涼太、今日何食べたい?」



一通り普段料理をするのに必要な調味料をカゴに入れて、あとは今晩の食事の具材だけになったとき 何を作ろうかと思って涼太に聞くとすぐに答えが返ってきた。



「ビーフシチュー!」
「好きだね」
の作ったの好きなんスよ!」



随分前に私の家に来たときもそれだった。 別にビーフシチューなんて誰でも作れるし同じなんだけど、彼は「の作ったのが、俺は好きなんス」 といつも言ってくれている。 昔よりはレパートリー増えたよ?って言っても「ビーフシチューがいい」と彼はそう言う。 でもこれからいくらでも彼にいろんな料理を出すことができる。今日から毎日私が作るんだから。 ビーフシチュー以外に好きって言われるるものができるといいな。

レジをすませるといつの間にか涼太が袋詰めをしてくれていた。 そしてそのまま荷物を全部持ってくれた。結構買ったのに、彼は片手で全部持ってしまう。 一見、そんなに力なさそうに見えるんだけどね。やっぱりバスケしてると力がつくから。 なんて涼太の背中を見ていると「ほら、行くッスよ」と手を引っ張られ、そのまま手を繋いで 私達はスーパーを出た。

家に帰って料理をしていると、涼太がキッチンへ来て「手伝う」と置いてあったニンジンを持った。 じゃあ、それ切ってってお願いするけど、料理をしたことがない涼太は 皮のままニンジンを切ろうとする。慌ててこれで皮むいてから!とピューラーを渡す。 皮むきを終えると「次は?」と言ってくる。



「こうやって、切るの」



お手本を見せてから涼太に包丁を渡す。飲み込みは早い。 涼太は手本と同じようにニンジンを切った。どう?と言って見せてくる涼太は 子どものようで、いつもなんでも完璧にこなす彼を見てきた私にとって 料理が初めてな涼太は新鮮だった。可愛くて可笑しくて。



「やっぱは料理上手ッスね」



ちょっと遅めの夕食を食べ始める。彼はおいしい、と食べてくれていた。 それから片付けも手伝ってくれて、本当に助かったしなんだか夫婦みたいで 同居決めてよかったと思う。もし、同居が決まっていなかったら、毎日一人でご飯食べることになるから。 (なにより、彼の食事生活が心配だ) すべての片付けを終えて、一段落したところで私は 今日買ったばかりのマグカップを箱から取り出し、そこにコーヒーを入れた。 ソファに座っている涼太の横に座ってマグカップを渡す。



「ちゃんとミルク入れてくれた?」
「何年一緒にいると思ってるの?」



涼太はブラックコーヒーがあまり好きではない。 一度、ブラックコーヒーを間違えて渡してしまったことがあるけど、 そのときの涼太はすごくおもしろかった。飲んだ瞬間、うえ、とまずそうな顔をしてから お水をぐいぐい、と飲んでしばらく顔を歪めていた。 それが可笑しくて笑ってたら「いつか飲めるようになるんスから!」 と言っていたけど、まだまだ涼太はブラックコーヒーを飲めないらしい。

しばらくテレビを眺めていると、涼太が「あ」と何かを思い出したかのように マグカップを手に持ったまま自分の部屋に入っていった。 すぐに出てきたけど、片手には大きな紙袋を持っている。 そしてにこにこした顔で「に!」と紙袋を渡してきた。



「なに?」
「スタイリストさんがくれたんスよ。彼女にって」



中身を見てみると、化粧品でいっぱいだった。 試供品ばかりらしい。けれど、普通に使えるし、まだ発売されてないやつもある。 日頃、化粧品に気を遣っている私にとって、これらは最高のプレゼントだった。



「洗面所にも化粧品とかいっぱいあるッスよ。俺使わないから」
「使っていいの?」
「女性もんだし」



私は洗面所を覗いてみる。そこには 本当に化粧品がいくつも並んでいて、ほとんどが女性ものだ(本当に大量) これで当分、化粧品買わなくてすむなーなんて思いながら 涼太に「ありがとう!」とお礼を言った。今度スタイリストさんにも言わなきゃな。



「たまに使ったりするの?あの化粧水とか」
「スタイリストさんがくれるッスからね。たまに使ったりするッスよ」
「ふーん。だからこんなに綺麗な肌してるのかなあ」



ぷにぷに、と私は涼太のすべすべ肌を触る。もちもち。 女の子からしても羨ましいこの肌。絶対この人、肌荒れとかに悩んだことないな、とか昔から思ってた。 高校のときはみんなから「どの化粧水使ってるの?」とか「どんなケアしてるの?」なんて 毎日質問攻めされていた。



も綺麗ッスよー」



涼太も私のほっぺをぷにぷにと触る。 そりゃ、毎日頑張ってるもん。涼太と付き合い始めた頃から、ずっと。 付き合うまではケアとかしたことなかった。でも、こんなんじゃ自信もって涼太の彼女です、 なんて言えないと思ったから頑張ろう、と決意したのだ。 お互いぷにぷに触りあっていると、テレビのCMで聞き覚えのある音楽が流れて 私は視線をテレビに移した。そこにはワックスをつけて髪をいじってる涼太の姿。 最近、放送されるようになったワックスのCMだ。今目の前にいる人とは別人みたい。 (だっていつもへらへらした顔してるんだもん。みて。この頬つねられてる顔)



「涼太がかっこつけてるー!」



テレビを指差しながら へらへら笑えば涼太は顔をむっとさせて「CMだから!そこはかっこいいって言うんスよ!」 とむぎゅ、と私の頬を軽くつねった。







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