![]() 引越しと言っても、ベッドとか家具を運ぶわけじゃなかったので、思ってたよりも早く終わった。 早いけど夕食の準備にとりかかろうかなと思ったけど、冷蔵庫に何も入っていないことを思い出す。 材料どころか調味料すらもない。時計を見たらまだ三時。 買い物をする時間は十分あるので近所にあるスーパーに行くことにした。 このマンションは条件がいいと思う。近所にスーパーはあるし、少し歩けばデパートなどが 立ち並ぶ大通りに出るし、駅だってある。ここにきてよかったな、と思う。 出掛ける準備をしていると涼太が不思議そうに「出掛けるんスか?」と聞いてくる。 「買出し。冷蔵庫何もないから」 「じゃあ俺も行くッス」 「えー涼太と行くと目立つからなあー」 「力弱いッスよね?持てるのかなー」 「……じゃあ、お願い」 そう言うと涼太は嬉しそうに玄関に向かう。 「早く!」と言っている彼は子どものようだ。くすくす笑いながら家を出ると 涼太は手を差し出してくる。涼太は出掛けるとき、手を繋ぐようにといつも手を差し出してくる。 付き合い始めの頃は、手を繋ぐなんてことが恥ずかしくてためらっていたけど、今は慣れた。 もう当たり前になっている。ぎゅ、って手を繋ぐと涼太は嬉しそうに「行こ」と歩き出した。 *** 「これ可愛い!」 スーパーへ行く前に、可愛い雑貨屋を見つけた。ショーウィンドーに飾ってある カップやぬいぐるみについ見とれていたら、涼太が「入る?」って聞いてくる。 マンションから歩いてすぐだし、いつでも行けるからいい、って言うけど 涼太は「余裕あるし、入るッス」と言って手を繋いだまま私達は雑貨屋に入ることにした。 涼太はいつも私が言わなくても思っていることを、わかってくれる。 今だって、入りたいっていう気持ちわかって、「入る」って言ってくれたんだと思う。 もしここで入らなかったら、後々「入ればよかった」って私が後悔するのをわかってるから (今まで何度も経験してるからね) しばらく見ているとペアのマグカップを見つけて私は思わず声に出してそのマグカップを手に取った。 マグカップに顔とハートが描かれている。二つ並べると持ち手のところが腕を組んだようになる (こういうの、いいなあ)まじまじと見つめる。そういえばこの前、友達がお揃いのマグカップ買った とか嬉しそうに話してたなあ。 「買う?」 「んー、いい!」 「今のうちッスよ?」 「……いい!」 行こう、と涼太を押して進むけど振り返ってはあのマグカップを見る(あー、可愛い!) そんな私を見て涼太はクスクス笑ってそのマグカップ二つを手に取った。 「買う!」 「え!?」 「同居祝いッス」 「で、でも…ほんとにほんとにいいの?」 「そう言いながら、嬉しそうな顔してるッスよ」 むぎゅ、と私の鼻をつまむ涼太。そんなに嬉しそうな顔してた?って聞くと「ん」と頷いた。 ほら、やっぱり涼太は私の心を見透かしてる。 それからレジに向かうけれど、「あ」と思い出したように涼太が私のほうに振り向く。 「ポケットの中にあるのとって」 財布かな?と思ったけれど財布はちゃんと手に持っている。 両手がふさがっているから、自分ではとれないらしい。 なんだろう、と思いながら涼太のジーンズの中に手を突っ込んだ。 すると出てきたのは鍵二つだった。これ…、と涼太を見るとにこっと笑っていた。 「のと俺の鍵ッス!何もつけてないの寂しいから、キーホルダー選ぼうと思ってて」 「私の鍵?」 「そ」 「嬉しい!作ってくれたの?」 「同居するって決まってから早速作ってもらってたんスよ。帰る時間ばらばらだし」 「ありがとう、涼太。キーホルダー早く選ぼ!」 「はいはい」 キーホルダーは、小さなクマがついているのを選んだ。 それからバスケットボールのキーホルダーも買って一緒につけることにした。 バスケットボールを選んだとき、涼太は笑った。 私は彼が中学生の頃からバスケをしているのをずっと見ている。 今だってモデルの仕事と、学生生活と忙しいけどバスケはやっている。 それに私自身も経験があるから、バスケが好きだ。 「あー。そうだ。この前、青峰っちと黒子っちに会ったッス」 「え?いつー?いいな。元気だった?」 「そりゃ、青峰っちは特に。ああ、あと黒子っちがさんとバスケしたいですね、って」 「わー!やりたい!今度みんなで集まろうよ!」 「集まるかなー」 「そう言ってる涼太がなかなか予定合わないじゃん」 会計を終えて、また手を繋いで雑貨屋を出た。外はもう日が落ちようとしている。 まだ春先だから日が落ちるのが早い。慌てて私達はスーパーへ行くことにした。 TOP |