思ってたより、コントロールできて安心した。1年生のときは右に進みたくても左に進んでしまうことがあったけれど、 今は思った通りに進むことができてる。けれどのろのろとしか進むことができなくて、 ようやくあたりを見渡せるような高さまで来たときには、もう試合はとっくに始まってジェームズとブラックが スニッチを捕まえようと必死で追いかけていた。



!いざとなったら、持ってるそれ、振り回せ!」



ケイトがそう言ってものすごいスピードでわたしを横切った。 そしてブラックチームの一人がブラッジャーに襲われそうになっているところをケイトがクラブでブラッジャーを 打ち返した(ああ、なんてかっこいいんだろう。わたしもあんな風に助けることができればいいんだけど…) ぎゅ、とクラブを持つ力を強めてわたしはさらに高く飛び上がった。 そしてブラッジャーからなるべく遠ざかるように飛び続けた。



「嘘でしょ…!」



けれどそう簡単にいくはずなんてない。ひとつのブラッジャーがわたし目掛けて飛んできたのだ。 逃げるには遅すぎる。ブラッジャーに背を向けたら、一発だと思う。 だったら、打ち返すしかない。けど、どうしよう。そんなこと、自分にできる?



!クラブ振り回せ!」



近づいてきて、もうだめだ、なんて思ったときにブラックがそうわたしに叫んだ。 またクラブを持つ力を強める。勇気を振り絞って、わたしはブラッジャーが近づいてきたときにクラブを振り回した。 すると、カンッと大きな音をたててブラッジャーがクラブに当たり、ブラッジャーは逆の方向に飛んでいった。 もしかして、当たった?



!やればできるじゃねえか!」



さっきまで上にいたブラックがわたしのところへ来て頭をくしゃりを撫でた。 それからすぐ彼はジェームズを追って飛んでいってしまったけれど、なんだか褒められて嬉しかった。 思わずそこでブラックに撫でられた頭に手をおいた(すごい、どきどきしてる)しばらくボーッとしていると 敵側だけどわたしを心配してか、リリーが遠くから「、ボーッとしてたら危ないわよ!」と叫んだ。 わたしも慌てて力を入れて飛行する。まだ試合は続いているんだから!頑張ろう。 けどもう一度ブラッジャーが飛んできたらさっきみたいに打ち返す自信はない (自分でいうのも空しいけど、さっきのは奇跡)ぐるりと辺りを見回してブラッジャーの在り処を探す。 1つはたった今ケイトが打ち返した。あともう1つは?



「大変!」



あともう1つのブラッジャーはブラックとジェームズを追っていた。 でもケイトはもう1つを打ち返すのに必死。ここはわたしが行くしかない。 けれどさっきみたいな奇跡がもう1度起こると思う?起こるわけない。 でもあのブラッジャーが彼らに当たったら?もうすぐクディッチの試合なのに支障が出ちゃう。 こんなこと考えてる場合じゃない。とにかく彼らを助けなきゃ!(どうにかできるわけじゃないけど!)



「ブラックー!」



間に合うかわからないけど、精一杯の力を出してわたしは飛ぶ。 でもありがたいことに彼らからこちらへ向かってきた。またクラブを持つ力を強める。



!お前何やって…」
!君危ないよ!」
「危ないのは貴方たちよ!後ろにブラッジャーがいるの!」
「「それはこっちのセリフだ!」」
「え?」



こっちに迫ってくるジェームズとブラックはすごい顔をしながらわたしの後ろを指差してる。 なに?わたしの後ろ?飛びながら後ろを見ると、そこには先ほどケイトが打ち返したブラッジャーが。 わたしを追いかけてる!?



「えええ!?どうしたらいいの!?」
「とにかく逃げ続けろ!」
「無理よ!わたしのこんな遅いスピードじゃ…!」
「今から速くなる努力くらいしろ!」
「無理言わないで!でも貴方たちだって危ないのよ?」
「俺たちは大丈…!後ろ!避けろ!!!右!」



ブラックが青い顔をしてそう叫んだ。また後ろを振り返ると、さっきは結構距離があったブラッジャーがもう目の前に あった。ブラックの指示ですぐに体を右に傾けた。直で当たるのは避けることができたけど、 箒にブラッジャーが当たって壊れてしまった。つまり、箒としての役割ができなくなったってこと。 急に力が抜けたようにわたしは真っ逆さまに落ちる。



「(これで死んだら、どうしよう)」



ぎゅっと目を閉じると遠くからリリーの叫び声が聞こえた。リリー、ごめん、わたし…。 "死ぬかも"なんて思ったときにお腹にぎゅっと何かが巻きついた。ぐえ、と変な声を出しながら目をゆっくりと 開けるとわたしのお腹に巻きついてるのは誰かの手。下を見ると数センチ先には地面(うわあ!) もしかして助かった?



「間一髪。びっくりさせんなよ…」



声でわかった。わたしを助けてくれたのはシリウス・ブラックだ。 彼はわたしをその場にどすり、と落とした。差が数センチしかなかったから、 落ちても痛くはなかったけれど女の子に対してそれはないでしょう!なんて言おうと彼の顔を見たら、 珍しく息を切らして青い顔をしていた。



「大丈夫…?」
「それはこっちのセリフだろ?お前こそ怪我ないか」
「貴方が助けてくれたから…」



わたしはたった今危ない状況だったっていうのに、意外と冷静だ(自分でも驚いてる) けれどブラックは焦ってて、それが可笑しくて小さく笑ったら彼は眉を寄せた。 そんなときみんなが空から降りてきてわたしたちを囲んだ。その中からリリーも来てわたしを思いっきり抱きしめた。



!大丈夫!?怪我はない!?ああ、もう!心臓が飛び出るかと思ったわ!」
「大丈夫。ブラックのおかげで」
「よかったね、シリウス!君ヒーローだよ!」
「ジェームズは黙れ…」
「うん、そうだね。ブラックはわたしのヒーローかも」



リリーに抱きしめられながらくすくす笑ってブラックに言うと、「はあ?」と嫌そうな顔をした。



「ありがとう、ブラック。助けてくれて」
「別に。逆に心配して損したぜ」



っけ、と言うけど、彼は意外と優しいみたい。







09. My hero わたしのヒーロー





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