「おはよう」
「お、おはよう」



談話室の前でブラックに会ったときに挨拶をされた。 まさか挨拶するなんて思ってなかったからびっくりして持っていたレポートを落とすところだった。 そんなわたしを見てブラックは「気をつけろよ」と少し笑って談話室に入っていった。 隣にいたリリーも驚いて「何あれ」とつぶやいた。



「ブラックが挨拶なんて気持ち悪いわね」
「びっくりした…」
、何かしたの?」
「何かっていうか…。実は2日前、」



2日前起こったことをリリーに話すと「自分からばらすなんて…本当にって馬鹿」と言われた。 あれは、仕方なかったの、なんて少しの言い訳をしてもリリーは「はいはい」と受け流すだけだった。 そのまま大広間に着くと今日はジェームズたちはいないみたい(ちょっとホッとした) けれど視線を少しだけレイブンクローに向けると、ブラックの彼女がいた。 目が合って、一瞬じろりとにらまれた。



「こわー…」
「え?なに?」
「ううん。なんでもない」



レイブンクロー側を背に向けてわたしたちは座った。 いつものようにクロワッサンを2つ取ろうとした瞬間に脳裏に2日前、ブラックに言われた言葉が浮かんできた。 「朝からよく食べるな」思い出して少しカッとして。ちらり、隣に座るリリーを見ると、 彼女はクロワッサン1つだけを皿の上にのせていた。やっぱり朝からクロワッサン2つはおかしいのかな。 もう1つ取ろうとしていた手を止めてわたしはかぼちゃスープを飲んだ。



「あ。そうそう。さっき聞いたんだけど、今日飛行訓練があるらしいわよ?」
「へー…飛行訓練ね、懐かし…え!?」



クロワッサンを一口食べたあとにリリーがそう言った。 飛行訓練ってあの飛行訓練?うそよ!だって飛行訓練は選択しない限り1年生のときにしかやらないはず。 魔法薬学と同じくらいに苦手な科目だ。いい思い出なんてないもの (箒がなかなか上がってくれなかったり、言うことを聞かなかったり、高いところから落ちた経験もある) 1年生が終わると、飛行訓練はなかったから安心していたのに。いまさらになってどうして? リリーに問うとどうやら魔法薬学の先生が急に体調を崩し、急遽飛行訓練の指導をしている先生がその時間を 受け持つことになったらしい。自習にすればいいものの、折角なんだし飛行訓練でもしようかという話になったらしい。 他の生徒は自習よりも飛行訓練のほうがいいらしく、大喜び。でも苦手科目であるわたしにとっては喜んでいいことじゃない。 別に箒を使うことなんて滅多にないのに…(クディッチの選手になるわけでもないし)



「飛ぶだけだったらいいんだけれど…」
「そうはいかないみたいね」



リリーがほら、と斜め前を見る。そこには同級生がいて 「今日、飛行訓練あってそこでクディッチの試合するらしいぜ!楽しみだな!」なんて言っている。 楽しみ?ぞっとするわ!クディッチなんて大人になってやるものでもないし、 魔女になるために必要なものでもないと思う。なのに、どうして。 具合が悪いって言って休もうかな…(だめよ、私も頑張るから貴方も頑張りなさい)(リリーはできるからでしょー!)



「クディッチするほど、わたし箒操れないのに…」
「あれから結構経つのよ?大丈夫よきっと」
「むしろずっと乗ってないんだから無理に決まってるでしょう!」



ああ、本当にどうしよう。



***



ついに来てしまった飛行訓練の授業。手元には箒。久しぶりの感触でなんだか変な感じである(自習でよかったのに)



「今日はクディッチの試合を体験するわよ!」



やっぱり噂は本当で。クディッチの試合を体験するらしい。 クディッチメンバーに選ばれているジェームズとブラックの2チームに分けてするらしく、 リリーはジェームズのチームでわたしはブラックのチームになった。 ブラックのチームは9名。試合に出れるのは7名だ。つまり、2名は補欠。 もちろん、わたしは補欠になる気満々だった(というか、絶対補欠になるだろうなと思った。 だってわたしが飛行苦手なのはみんな知ってるんだもん)ブラックが配役を次々と指名して言って、 残りはビーダーあと1人。



「あとはー…、お前やれ」



ビシッとブラックが指したのはわたしだった。ビーダーって言ったら、あのブラッジャーを止める、 危険な役?それをわたしに?嘘でしょう?なんて目でブラックを見ると「大丈夫だって」と笑った。 どこが大丈夫よ!!



「ブラック?わたしが飛行苦手なのは知ってるわよね?」
「知らね。でも、普通に飛べるだろ?」
「まあ、普通になら…たぶん」
「なら大丈夫だ。ブラッジャーなんて逃げてりゃ来ない」
「逃げるのは意味ないでしょう?」
「もう一人のケイトに任せとけって」



ケイトを見ると「大丈夫さ」なんて心強い一言。ありがたいけど、だったらわたしを選ぶ意味はないと思う! クディッチ選手の一人であるディーンのほうがいいでしょう?けれどブラックが言うにはそれは意味がないという。 今は授業であって、みんなに体験してもらうためにやってるから、とか言って(確かにそうだけれど)



「逃げ続ければいいことだろ」



まあ、頑張れとわたしにクラブを渡してきた。少しにやにやしてたブラックがむかつく! でもケイトが優しく「大丈夫だから。俺に任せては逃げ続けてくれればいいから」とか言ってくれた。 安心するんだけど…なんだかビーターに選ばれたのに、申し訳ないなと思う (けれど逃げ続けないとわたし死んでしまうかも!)彼に「なるべく…迷惑かけないようにする」とだけ言って わたしは箒にまたがった。久しぶりの感触。少し力を入れると箒はふわりと浮いた。 先生が笛を鳴らす。試合の始まりである。隣にいたケイトは「頑張ろうな」と言ってから高く飛び上がった。 ブラックも笛が鳴ると同時にジェームズと一緒に高く上がっていった。 少しぼーっとしていたわたしにブラックが「!」なんて名前を呼んで、 それに気づいたわたしは慌てて。少しみんなと遅れて飛び上がった。







08. Lady Go! レディーゴー!





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