シリウスが初めてを見たのは、 ジェームズがリリーを見て「あの子が好きになったんだ」と言ったときだった。 ジェームズの視線の先をシリウスも見てみると、彼女がいた。 クリーム色の少し長めの髪。瞳は透き通るような、青色。特別、とまではいかなかったが綺麗だった。 けれど笑ったときは綺麗、とは反対で可愛かった。そんな彼女に一瞬目を奪われた。



「シリウス?」



ジェームズに名前を呼ばれて我に返ったシリウスは 「あのクリーム色の?」とごまかすように慌てて聞いた。 するとジェームズはあはは、と笑って「違うよ、その隣にいる赤毛の人さ」とまた再び視線を戻した。 シリウスもよく見てみると、クリーム色の彼女の隣に赤毛の女性(つまりリリー)が立っていた。 ジェームズは彼女を好きになったのだ。



「リリーの隣にいる彼女は
?」
「そう。リリーと一緒にいると気付かない人も多いけれど、彼女も綺麗だよ」
「へえ」



ジェームズの言葉には納得した。シリウスが最初に見たのはだ。 綺麗だと思った。しかしその後にリリーを見て、2人一緒に見るとは目立たなかった。 隣にいるリリーが綺麗すぎるのだ。そして目立ちすぎている。 シリウスも、最初にリリーを見ていたらのことを綺麗、だとは思っていなかったかもしれない。




そのときからだった。が通るたびに目で追うようになったり、 おまけという形でにも悪戯をするようになったのは。どうしてそんなことをするのか、 シリウス自身もわかっていなかった。それにわかろうとしなかった。 そんなことをぼんやり談話室の暖炉の前にあるソファに座って考えていると、 夕食を終えたジェームズ達が戻ってきた。ジェームズはシリウスの隣に座り、 リーマスとピーターは少し離れた椅子に座った。



「やあ、シリウス。昼食からずっと今までどこへ行ってたんだい?」
「サボり」
「だろうね。言うと思ったよ。けれど残念だったね。昼食のときはくればよかったのに」



どういう意味だ?そう問うとジェームズはニヤニヤ笑って 「リリーとと一緒に食事をしたのさ!」と言った。 その瞬間、シリウスは冷や汗をかく。何故なら先程までのことを考えていたからだ。 「残念な話じゃないだろ?」と誤魔化すように言えば彼はまたにやりと笑った。



「一緒に食べたかったくせに」
「そんなわけないだろ」
「親友の僕が気付いてないと思ったかい?最近、君はのことを目で追っているじゃないか」
「(…こいつ、)」
「シリウスがのことをどう思ってるとかは君の自由だけどさ、悪戯は控えたほうがいいよ」



リーマスが言う。は悪戯されるの嫌がってたよ、と。 ピーターも控えめではあるが頷いている。そんな彼等に言い返すのはやめておこう (どうせ何か勘違いして言われるだけだ) けれど隣にいるジェームズは「好きなんだろ?好きなんだろ?」とニヤニヤ笑ってくるので シリウスは「うるせえって」と彼のお腹に蹴りを入れた。ジェームズは相当痛かったのか、 「ううっ」と言ってソファの端にうずくまる。



「お前等わかってるだろ?俺には彼女がいる」



といっても、3日前に付き合ったばかりだが。シリウスには常に隣には女がいる。 しかしその女は変わってばかりだ。長くても1ヶ月、短いときには1日ということもあった。 体目的で付き合ったこともある。しかし、そうなるとわかっていても、シリウスと付き合うのだ。 友人であるジェームズ達もそれを良くは思っていない。何度だって注意したことがある。 けれどシリウスは聞き流すだけだった。



「シリウス、君は本気の恋をするべきだよ」
「今回は本気だ」
「(それ何回目…)」



はあ、とリーマスはため息をつく。シリウスはそんなリーマスを見て顔を歪めた。 そして立ち上がってソファにかけていたローブを着た。 わかってはいるものの、確認のためにピーターが「どこ行くの?」と問うた。 するとシリウスは「シルクんとこ」と言った(シルクは今のシリウスの彼女だ) ジェームズはへらへら笑って「日が変わるまでには帰ってきなよ〜」とのんきにそう言った。 と、そのときどこからか蛙の鳴き声がした。



「…だれか蛙チョコレート食べてるのか?」
「違うよ、シリウス。足元見て」
「?」



リーマスがシリウスの足元を指差す。視線をその先に向けるとそこには普通の蛙が1匹。 どこから入り込んできたのか。シリウスは外に持って行こうと手を伸ばした。 そして指先が蛙の触れたときポンッと小さな音を立てて蛙が2匹になった。 そしてまた音がなって4匹、8匹とどんどん増えていく。 あちこちに飛び回って談話室にいた他の生徒も驚く。



「ジェームズ、お前か!?」
「そんなわけないだろ!?」
「じゃあ誰だよ!?」
「僕が知りたいさ!」



寄ってくる蛙を避けながらジェームズに問うとどうやら違うらしい。 リーマスもピーターにも同じ質問をすると2人も違うらしい。 じゃあ、誰が?犯人を捜そうと見渡したときに、シリウス頭の上に大きな蛙が乗った。 げろり、と鳴いてからその蛙は風船みたいに大きく膨れ上がった。 何が起こるから予想できたシリウスは慌てて頭の上に乗っている蛙を掴もうとした。 しかし指先が触れた瞬間、ぱちん!と大きな音をたててその蛙は割れた。 そして大量の水がシリウスに降ってきた。



「…なんだよ、これ」



シリウスはずぶ濡れになった。その瞬間他の蛙はポンッと音をたてて消えていった。 被害を受けたのはシリウスだけのようだった。 「大丈夫かい?」と声をかけてくるジェームズは口元を隠していた(笑いをこらえているのだろう)



「これ、僕たちが仕掛けた悪戯と似てるね」
「似てるもなにも一緒だろ。おい、ジェームズいい加減笑うのやめろ」
「っぷぐぐ、いった!何するのさ!シリウス!」
「笑うのや め ろ 」
「ごほん、ごめんごめん」
「スニベリーかな?」
「それはないな。あいつがグリフィンドールの談話室まで来て俺たちに悪戯する勇気あると思うか?」
「意気地なしだから、それはないね」



それよりも、シリウス。君着替えてきたら?リーマスがシリウスをじろりと見て言う。 シリウスは全身ずぶ濡れで今もところどころから雫がたれ落ちている。 着替えよう、とシリウスが思ったときにくすくすと誰かの笑い声が聞こえた。 この声は知ってる。シリウスが視線を女子寮へとつながる階段へと向けた。 するとそこにはシリウスが予想していた通り、が立っていた。彼女はシリウスを見てこう言った。



「水も滴るいい男だね」



それから風邪引かないようにね、とだけ言って彼女は女子寮へと入っていった。 シリウスはぽかん、と口を開けてがたった今入っていった女子寮の扉を見つめる。



「シリウス、今すごい間抜けな顔してるよ」



ジェームズが笑いながらそう言っても、シリウスはまだぽかん、 と口を開けて女子寮の扉を見つめていた。







03.Her revenge 彼女の仕返し





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