真っ白なドアをノックしても、返事はなかった。 静かにドアを開けて中に入ると、真っ白なベッドに静かに眠っているクザンさんの姿。 彼が眠り続けてかれこれ四日だ。 元帥の座を狙って赤犬さんと戦闘して、こんなに大火傷を負って。 どれだけわたしを心配させたか。

そばにあった椅子に座って彼を見つめる。 いつもはだらしなく寝ているのに、やっぱりこういうときは大人しく静かに眠っている。 はやく、目を覚ましてください。はやく「ちゃん」って呼んでください。 毎日どれだけ言っても彼は目を覚まさない。 命に別状がないのはわかってる。けれどやはり目を覚まさないのは心配なのだ。 もしこのまま一生、目を覚まさなかったらどうしよう、だとか。

わたしはそっとクザンさんの頬を撫でて「ばーか」と呟いてみる。 すると頬がぴくっと動いた。え!?と驚いて手を離すとクザンさんが目を覚ましてこちらを向いた。




「ちょっとちゃん。上司に向かって馬鹿はないんじゃないの?」




それもとても今覚ましましたよ、のテンションじゃない。 クザンさんはよいしょ、と身体を起こした。 え?ちょっと身体は大丈夫なんですか?あ、ナース呼びます?と ナースコールのボタンを押そうとしたら、その手を止められた。




「大丈夫」 「だ、大丈夫って…!いま、起きたばっかりなのに!」
「まあまあ。それよりちゃん、嬉しいこと言ってくれるじゃん?そんなに俺が恋しかった?」
「え?どこから聞いてたんですか?」
「どこも何も。実は昨日から目覚ましてたって言ったら怒るか?」




昨日から?だって、わたし昨日もちゃんときて、クザンさんに声かけたけど 目覚まさなくって。ひどい、わたしをからかってたんですか?




「そういうつもりはないんだけど。ちゃんがあんまり嬉しいこと言ってくれてるから」
「はあ?」
「起きたらもったいないなーとか」
「だからって、わたしどれだけ心配したと、」
「それについては謝る。でも俺は見てのとおりピンピンだ」




火傷はひりひり痛いけどな、苦笑いしてクザンさんは言う。 そして、彼はわたしの頭を優しく撫でた。「毎日きてくれていたみたいだね。ありがとう」 そんな優しい彼を見て、わたしは我慢できなくなって目からたくさんの涙が出始めた。 鼻水も出てずびずびになって、きっとわたしは今ひどい顔。 それでもクザンさんは笑ってよしよしと頭を撫でてくれている。




「クザンさんのばーか、あーほ、エロオヤジ」
「はいはい」
「はやくなおしてください!」
「すぐ直るさ。俺を誰だと思ってるんだ」
「エロオヤジです…」
「こーら」




こつん、と頭をたたかれる。 久しぶりのそれにわたしは懐かしさと嬉しさで「ふへへ」と変な声を出してしまった。 そしたらクザンさんは「ちゃん相変わらずMだねえ」と呟いた。







目を覚ましたおやじさん