「クザンみたいなかいぐんにわたしもなる」 がそう言ってから本部にくる回数は日に日に少なくなっていった。 と出会った頃はつんつんだったクザンは別人のように 今はに甘い。だからこそ本部にくる回数が減って、彼は少し寂しく感じていた。




「ちょっとじいさん、ちゃんは?」




ガープが孫の顔を見に行くと本部を出て一週間。 いつもなら戻ってくるガープと一緒にがやってくるのだが、今回は違った。いや、今回"も"だ。 ガープは「残念ながらは今回もおらんぞ」とクザンの肩をポンとたたいて言った。 またか、とクザンが肩を落とす。




「お前さんもすっかりに夢中じゃのお。心配せんでも元気にやっとるわい」
「でも最近、ほんとに来るの少なくなったじゃないの」
「お前さんみたいな海軍目指してるんじゃ。そこは応援するとこじゃろ」




ガハハ!と笑ってガープは本部の中へと入っていた。 クザンは小さなため息をついた。が「クザンみたいなかいぐんにわたしもなる」と言ってくれたときは 正直嬉しかった。だからクザンも応援しているつもりである。ガープに聞くと修行とやらに必死らしいので 邪魔をしたくはない。だからこちらから会うことはしないでおこうと決めた。 しかしそろそろ限界である。前までは一ヶ月に四回のペースで会っていたのに、 今では二ヶ月に一回くらいである。 今回はもっとひどい。に会ったのは三ヶ月も前の話である。




「(我慢できない。会いに行こう)」




クザンは部下に「船の準備してちょーだい」と声をかけた。




***




ドーン島に到着するなり、クザンはフーシャ村を目指すことにした。 しかしその前に市場が目に入る。そこにはおしそうな林檎が並べてあった。 は林檎が大好きだったのを思い出したクザンは、少し林檎を買っていくことにした。 林檎が入った紙袋を片手にフーシャ村までのんびり向かっていると「うるさい!」と高い声が聞こえた。 クザンはそちらに目をやると、そこには男の子何人かと女の子が一人何やら言い争っていた。




「海賊のほうが強くてかっこいいだろ!」
「海軍をばかにしないで!海賊なんてただの悪者じゃない!」
「悪者でもかっこいいだろ!」
「わたしが海兵になって海賊なんて潰してやるんだから!」
「むりむり!お前が海兵なんて無理だっつーの!」




男の子の言葉にカチンときたのか、女の子は男の子に殴りにかかった。 男の子も抵抗はするものの、圧倒的に女の子のほうが強かった。 お腹を蹴られた男の子は泣きべそをかいて「強い女なんて嫌われるんだぞ!」とその場から去っていった。 女の子は「弱虫男!」と叫んでしばらくその場に立ち尽くしていた。 しかししばらくしてずず、と鼻をすする音が聞こえ始める。 クザンは「あーらら」と思いながらも彼女へと駆け寄る。




「大丈夫?お嬢ちゃん」




俯いている彼女の前にしゃがみこんでクザンは声をかける。 すると彼女は顔をあげた。その顔を見てクザンは「え」と驚いた。 目の前にいる女の子は、会いたかっただったのだ。も驚いたようで 「クザン?」と名前を呼ぶがそれからクザンの顔を見てなおさら我慢できなくなったのか、 うあーんと大粒の涙を流して泣き出してしまった。 クザンはとりあえず彼女を抱きかかえた。この前抱いたときより少しだけ重くなっている (見ない間に成長しちゃって) 抱きかかえられたはぎゅ、とクザンの首に腕をまわした。




「あいつら、海軍のごと、ばがにしだのよっ」
「あらら」
「だがら、わたしぼこんぼこんにしてやって、ひっく」
「うん」




うわーん、とまた泣き出す。クザンはぽんぽんとの頭を撫でてやる。 ふと見るとの身体は傷がたくさんあった。 真っ白だった肌も小麦色に焼けている。ガープの言うとおり、頑張っているんだな、と感じる。 落ち着いてきたに、クザンはぽつりと言った。




「強くなったじゃないの、ちゃん」
「うん。頑張ってるから」
「でも、簡単に人を殴っちゃだめだよ」
「…うん。せいぎ、だもんね」
「そう」
「…強い女は、嫌われるの?」




先程の男の子の言葉を気にしているのだろうか。 はクザンを見つめながら言った。クザンはそんなが可愛くて愛おしくてたまらない。 そんなことない、と言ってやる。




「俺は強い女は好きだね」
「ほんと?」
「ほんと」
「じゃあ、もっと強くなれるようにがんばる」
「うーん。それもいいけど、無理しないでちょーだいね」




いっぱい傷あるじゃないの、とクザンがの身体をつんとつつくと はくすぐったそうに身をよじらせて笑った。 女の子なんだから、気をつけてね。と釘をさす。は「きをつける」と頷いた。 クザンはそういえば、とを抱きかかえたまま片手で持っていた紙袋から林檎を取り出した。 は林檎を見た瞬間、ぱぁっと嬉しそうな顔をして「林檎!」とクザンから林檎を受け取った。 シャクッ、といい音をたてておいしそうに食べるを見てクザンも微笑む。




「でも珍しいね、クザンがここにくるの」




不思議そうに聞くにクザンはため息をついた。




ちゃんが会いにいこないからでしょーが」




昔の自分がこんなことをいう自分を見たら笑うだろう。 はきょとん、としてから「さびしがりやのクザンだ」とふわりと笑った。 それから二人でしばらく林檎を食べながら会わなかったぶんの話をたくさんした。 そして別れるときに「最低でも二ヶ月に一回会いくること」と約束してクザンは本部へと戻った。 本部へ戻ると秘書やセンゴクにこっぴどく怒られ、ガープには盛大に笑われた。 それから一月経って、が会いにきた。クザンに会うと「さびしがりやのクザンに会いにきたよ」 と小さく笑って抱きついてきた。それを見たボルサリーノが「おやおや、さびしがりやァ?」と 笑っていたがクザンは気にすることなくを抱き返す。 しかしが帰ってから、ボルサリーノが噂を流したのか、しばらくクザンは「さびしがりやのクザン」と 呼ばれていた。







会いにきたよ、さびしがりやのクザンさん