クザンは遠くの方で大量の資料を持って走っている女大佐の姿を見つけた。 高いヒールを履いているため、走る姿が不恰好だ。ふらふらしていて転びそうだな、と 思った瞬間に彼女はどてんと転んだ。その様子を見て、微笑するクザン。 すると同じくそれを見ていたガープが「もまだまだお転婆じゃの」と笑う。 随分昔に、ある島が能力者によって全滅した。 しかし生存者が一人いた。それがだった。 そしてそれを見つけたのが当時まだ「燃え上がる正義」を掲げていたクザンであった。 クザンはと一番最初に会ったのを今でも鮮明に覚えている。 は街から随分離れた場所にある小屋で見つかった。 ちょっと触れるだけで折れそうな細い手足、すすだらけの顔。 顔をぐちゃぐちゃにして大声で泣いていた。 しかしクザンを見るときょとん、という顔をしてから何も言わずふらふらと立ち上がって クザンにぎゅ、と抱きついた。そんな小さな彼女に触れてみると、とても暖かかった。 それから彼女は海軍にひとまず預けられる。 あまり人見知りをせず、溶け込んでいったがクザンがいるとどうしても彼から離れようとしなかった。 そんな光景を見てボルサリーノが 「最初に見た海軍が青キジだから、彼のことを母親みたいに思ってんじゃないのォ?」 と冗談で言っていた。それくらい、はクザンがいると彼からずっと離れないでいた。 しかし、いつまでも海軍に置いておくのも難しいことだった。 最初の発見者であるクザンが面倒を見るのがいいじゃないか、という意見が出たときは クザンも正直焦った。 「待ってくれよ。俺まだ独身だぜ?」 「独りは寂しいじゃろ」 「そりゃ寂しい。成人の女なら大歓迎だけど、子どもは無理だって」 センゴクをどう説得しても無理だった。しかしそこで助けてくれたのがガープだった。 「うちによりちょっと下じゃが、孫がおる」 姉貴が欲しい、と嘆いておった。ということでを引き取るのはガープになった。 一件落着となったのだが、問題は本人だった。 クザンと離れるのが嫌だったらしい。船に乗るのを嫌がり遠くで手を振っているクザンの名を 何度も呼んだ。しかし、ガープが無理矢理連れて行き、悲しいお別れとなってしまった。 クザンもようやく楽になれる、と思っていた。 しかし、がいない日々は以外と寂しいもので、「今度ちょっと顔出してみるか」と 思った自分にクザンは笑った。 しかし意外にも会いにきたのはのほうだった。 それもガープが本部に戻ってくる船にこっそり乗り込んで来たらしい。 それからはちょくちょくそのような方法でクザンに会いにきた。 最初こそ、「勝手なことはやるな」と言っていたのだが、それでも 会いに来る彼女を見てなんだか愛おしくなったクザンはそう言わなくなった。 しばらく経つと彼女は「クザンみたいなかいぐんにわたしもなる」と言い始める。 一月に何度も海軍本部に現れていた彼女だったが、そう言うようになってからは 二月に一度くらいしか本部に現れなかった。ガープに聞くと、どうやら島のほうで 孫と一緒に修行とやらをしているらしい。目指すものがあっていいとは思ったが、 会うことが少なくなってクザンは少し寂しく感じていた。 あれからまた月日が経ってが17歳になると彼女は海軍になった。 有言実行させたのである。 そして20歳である今では大佐まで地位を上げた。 小さい頃から知る者はは彼女を見るとしみじみと「大きくなったなあ」と呟く。 「ちょっと!ガープじいさん!」 過去に思い浸っていると、の声が聞こえた。 どうやらぴりぴりしているらしく、大声でガープの名前を呼ぶ。 「コビーが探してた!なんでこんなところでさぼってるの?」 「さぼってなどえんわい。、そんな恐ろしい顔しとるとしわがとれんくなるぞ」 「もー、そうさせてる大半はガープじいさんでしょ?ほら、早く行って」 はガープに資料を渡してぐいぐいと背中を押した。 ガープは「ガハハ!」と大きく笑っての頭をくしゃくしゃと撫でてから歩いていった。 はもー、と言いながら髪を直し、クザンを見た。 「クザンも何やってるの?仕事は?」 「休憩中」 「嘘でしょ。また秘書さん泣くよ?」 ヘイヘイ、とクザンは返事をして歩き出す。も同じ方向らしく横に並んで歩く。 昔は小さくて「クザン」と甘えてきた可愛い子だったけれど、今となっては少し可愛さは減っている。 しかし、可愛さの代わりに大人の色気が出てきた。 ここ最近、胸も大きくなってそれ以外はスラリとして20歳の今ではもう大人の身体だ。 「いい女になったな」とクザンは彼女を見る。 「そんな高いヒール履いてるから転ぶんでしょ」 「さっきの見てたの!?サイテー」 「見てたんじゃなくて、見えたの」 「もー」 「そんなに気に入ってんの、そのヒール」 ニヤッと笑ってクザンがの足元を指差しながら言うとはぎょっとしてから顔を赤くした。 が今履いているヒールはついこの間迎えた20歳の誕生日のときにクザンからもらったものだった。 箱を開けるなり、「わあ!」と喜んで早速履いて「どう?似合ってる?」とくるりと廻っていた。 次の日からずっと彼女はそのヒールを履いているので、気に入っているのだろう。 「うん。クザンからもらったから」 右足を少しあげて、ヒールを見てそう言った。 えへへ、と笑う彼女にクザンは思わず抱きしめそうになる。 しかし、タイミングよくクザンを見つけた彼の秘書が「大将!」と大きな声を張り上げたので クザンは手を止めることができた。はまたね、とそう告げてクザンの先を歩いていった。 そんな彼女の後ろ姿を見てクザンは呟く。 「そろそろやべえな」 |