オカンのおかげ
「何か嫌な雰囲気漂ってるんやけど」
委員会で遅れて慌てて来た白石が見た光景は、
右腕にぐちゃぐちゃになったガーゼを当てていて負のオーラ丸出しの一氏と
いつもは笑顔で絶えないのだが、今日は繭を寄せていて
丁寧にやっている作業も、どこか荒々しいと
そしてそれを心配そうに見つめる小春たちや謙也たち。
もう練習どころではなさそうだ。
「白石ぃ〜、が冷たいん〜」
最近、と仲良くなった金ちゃんもそう言って白石に抱きついてきた。
何があったのかと一番冷静になっている財前に聞くと、どうやら喧嘩をしたらしい。
(世話の焼ける奴らやなあ)
「、喧嘩したんやって?」
「白石くんどうしよう…!」
小春たちに練習を再開するように言ってから白石はのもとへ言った。
声をかけると、は青ざめた顔で白石の腕を掴んできた。
白石は「どないしたん」そう優しく言っての横にしゃがんだ。
「じ、実はですね一氏くんにひどいことしちゃって」
「何したん?」
「右腕怪我したのに、あたし手当てしなくて」
「(だからあんなぐちゃぐちゃなんやな)なんでせぇへんかったん」
「いや、ついムカッとなって…えへ★」
「アホ。そんなかわいくして言うことやないやろ」
「いや、でもあっちもあたしにひどいこと言ったからね」
何言われたん?そう白石が聞くとは下を向いてぼそぼそと呟きだした。
俺はまだお前のことを認めてへんだとか、
この3日間認められるように頑張ってきたのにひどいよね、だとか。
でも最後に「悪いことしたなあー」と言った。
「反省してるん?」
「そりゃあ、少しは。認めてへんなんていわれたことは怒ってるけど…」
「ユウジが口下手なんやねん。そこら辺許してやってや。ユウジかって、
千尋が頑張ってるとこ見てるはずや。それに、俺は認めてるで?
小春や銀や謙也だって。みんなのことちゃんと見とる」
それを今回に台無しにするんは嫌やろ?
はそれを聞いてそりゃ、そうだけど…と口ごもった。
白石は小さく笑っての頭に手を置いた。
「とりあえず今はスコア表やらなあかんやろ?仕事はきちんとやってから手当てしてきぃや」
「うん。そうする」
「いつもの笑顔やで、」
「…白石くんさ、今あたしのこと子供扱いしてるでしょ」
そう言ったに白石はどうやろなと笑ってから
再びの頭をポンッとたたいてコートを出て行った。
(さて、次はユウジやな)
★★★
「ユウジ」
「…なんや、白石やん。どないしたん」
白石は次に一氏のところへ向かった。
さっきまでコートにいたが、部室の小さな倉庫の中にいた。
「、機嫌悪かったみたやけど」
「なんや、お前もの味方か」
「何言うてんねん。味方とかあらへんやろ」
「…アイツが勝手にキレたん」
「なんでか原因は自分でわかっとるんちゃうの?」
「…アイツにマネージャーのこと認めてへんって言ったんや。たぶんそれで…」
そう言った一氏の顔はどんよりとしていた。まるで言ったことを後悔しているような。
それを読み取った白石は「後悔してるん?」そう聞いた。
すると一氏は驚いた顔をして「俺が?」と白石に逆に聞いてきた。
(ほんま、ユウジは自分のことわかってへんなぁ)
「そういう顔しとるで」
「けど、俺かてアイツ頑張ってたのは見てたで」
「じゃあ、認めてるんやろ?」
「んー…」
「そろそろ認めてやったらどうなん?」
はユウジに認めてもらいたくて今まで頑張ってきてたのに、
その本人にまだ認めてへんって言われたら、悲しいやろ?
白石の言葉に一氏は言葉をつまらせた。
「…謝ってくればええんやな」
「せや。ちゃんと話してきぃや」
にこっと笑うと、白石は一氏に「ホントお前オカンみたいやな」といわれた。
★★★
「…あ」
「あ」
どうやって謝ろうかずっと考えていたら、目の前に一氏くんがいた。
お互い、目が合うと少し驚いた顔をする。
けど、すぐに一氏くんはあたしから目を逸らした。
(ああ、やっぱり怒ってるんかな)
ここは素直に謝ろう…。白石くんに言われたし。
「…ごめん」
「悪かった」
思わずあたしは目をパチパチさせて一氏くんを見てしまった。
あれ?今声重ならなかった?嘘だ。一氏くんが謝ってきたなんてこと…。
「なんでお前が謝るん」
一氏くんも驚いた顔をしてあたしを見てきた。
あ、やっぱ一氏くんも謝ってきたのか…って違ううう!
いや、それはこっちのセリフですけど!
「いや、あたしはキレちゃって手当てをしなかったのが…ていうか、一氏くんこそ」
「俺は、まだお前のことを認めてへんとか言ったからに決まってるやろ!」
ああ、そういえばそういわれた。なんか謝ることに必死すぎて言われたことを忘れていた。
ていうか、驚いた。一氏くんから謝ってくるなんて!
「いや、別にもう気にしてないというか…あ、いや。でもちょっとショックだったていうか…」
「だから、悪かったって言ってるやろ、ドアホ」
「ドアホって何!?こっちはすっごくショックだったのに!」
「あの時はイライラしてたで口走ってもたんや!俺かてお前の頑張り少しは…、!」
「…少しは何?」
「ニヤニヤすんなや、気持ち悪い」
「へへっ。認めてるって素直に言えばいいのに」
「ちょ、調子乗んなや、コラ。死なすど!」
少しの沈黙があって、あたしは大笑いした。
それを気持ち悪そうに見る一氏くん。
でも、一氏くんにこんなに会話できるなんて思ってなかった。
これも白石くんのおかげだ。
「一氏くん、腕あたしに手当てし直させてよ。ごめんね」
「…仕方なくお前にやり直しさせたる」
「何その上から目線ー!」
その様子をコートから見ていた小春たちは驚いた目で見ていた。
けれど、誰もがやっと仲良くなったと思っただろう。
そして白石は「世話のやける奴らやなあ」と微笑みながら2人を見ていた。
(お前に謝れって言ったのは白石や)(え?あたしもそう言われた)
((やっぱ白石『くん』はオカン『お母さん』みたいだ))
やっとユウジが認めてくれました(笑)次からギャグいきたいなあ、なんて。
10.07.15