なんであたしなの!







 一番嫌いな国語の授業。
教科書を読まずに外で体育をしている2年生達を見ていた。
そんなときに、隣の席の白石くんが声をかけてくる。



「なぁ、



白石くんは2年生のときに同じクラスになって仲良くなった。

どう見間違いしたかわかんないけど、一時期彼女って言われていたときがあって
ときどき先輩に呼び出されることも少なくはなかった。
けど、付き合ってなんかいなかったんだよ?



「なにー?」
「テニス部のマネージャーやらん?」

「…はぁ!?」

 

いきなりすぎて大声を出したけど、やってしまった。
みんな注目だよ。白石笑ってるよ。…ハメたな、こんにゃろう。



、そんなに作文書くのが嫌なんか?」
「え…いや、は?」



どうやら、作文の話をしていたらしくて。
「作文明日までの宿題なー」とか先生が言ったあとにすぐあたしが言ったらしい。
おかげで先生には「お前は特別5枚な」とか言われた。

国語の中でも一番作文が苦手なのに…。

 


「お前あっほやなー」
「うっさい!白石くんのせいだ!」

 

授業が終わってすぐに前の席の謙也が後ろを向いてからかってくる。
キッて白石くんを睨むと「ちゃうねん」って言ってきた。

 

「絶対ハメたでしょ」
「偶然や、偶然」
「ちゅーか、何言われたん?」
「マネージャーやらん?って」

「はぁ!?」

 

…鼓膜破れるかと思った。
謙也、アンタまじで考えてほしいんだけど。
耳を押さえながらそう言うと「あ、すまん」って謙也は言う。

 

「お前、先週マネージャーは募集せんって校内新聞に載せたばっかやん!」
「あぁ、あれか…」
「謙也、本気にしないでよ。あたしをハメるために声かけたんだよね?」
「え、本気やけど。あれ偶然やって」
「「嘘!?」」

「2人ほんま似てるなぁ」

 

確かに、謙也とは小学校も一緒で昔から仲いいけど…って違うわ!
マネージャーですか!?ドリンクとか作ったりするあの大変な仕事するやつ!?



「けど、レギュラーだけでええんやで。1,2年は自分で作らせるし」
「そういう問題じゃないでしょ。そもそもなんであたし」
「そや。こいつ不器用なんやで?…いった!叩くことないやろ!」
「あたしは不器用じゃない。ちょっと器用じゃないだけ!」
「それを不器用言うんや!」
「まぁまぁ。で?マネージャーやってくれるん?

 

男子テニス部でマネージャー募集をしたことは一切ない。
希望する人もたくさんいるのに、部長の白石くんは断り続けた。
なのに、そこで初めてのマネージャーがこのあたしっていうのはおかしいと思う。

謙也の言うとおり・・・。不器用だし。

 

「ドリンクとか作ったりするのに不器用とか関係ないで」
「でも、他にたくさんいるでしょ。マネージャーしたい人とか」
「だから、なんや」
「…は?言ってる意味がわかんないんだけど!」
「マネージャーしたい子はほとんど俺等目当てなんや」

 

あぁ。なるほど。マネージャーになってモテたいみたいな感じだね!
って言うと、そやそやって白石くんは答えた。
あ、だからあたしなんですね…。モテないという意味で。なんか空しい。

え。けどだったらそれはそれで嫌だよ。

 

「女扱いされないってことでしょ…?」
「…誰もそんなこと言うてないやろ」
「じゃあその最初の間は何だ、こんにゃろう」
は、話しやすい女の子っちゅーことや」

 

ほら、女の子ってよく男の子の前ではなんちゅーか…可愛いフリしてるやん?
けどにはまったくそんなのないんや。だから話やすいんや。
そう白石くんは言うけれども。


それとマネージャーと何が関係あるのでしょうか?
わたしにはまったく理解できません。

 

「…なんかさっきから詳しく説明して説得してるみたいだけれど…。
ごめん。ますますマネージャーやる気無くした。むしろ、やりたくない

 

そう言うと白石くんは困り果てたような顔をする。
白石くんにとっては、あたしを褒めているつもりだったんだろう。

けどあたしにとっては嫌なことを言ってるようにしか思えない。

だってあきらかにそうでしょう?

話しやすい女の子   イコール  女の子として見てない
可愛いふりしてない  イコール  女の子じゃない
あたしにやってほしい イコール  モテないとわかってるから

いいこと言ってないよ、これ。


「とにかくさ、他あたって?あたしは無理だから」

 

そう言ってからタイミングよくチャイムが鳴って会話は中断される。
しょうがない、といった顔で白石くんは自分の席につく。

今は6時間目。もうこの授業さえ終われば帰れる。
今日は謙也たちとずっと話していないですぐ帰ろう。
じゃないとまた白石くんに言われるに決まってる。

 


「よーし、終わるぞー」

 

先生の合図で当番が起立、礼っていう。
そのあとすぐにあたしは教科書とか筆箱を鞄に入れて教室を出る。
うしろでは謙也が「ー、どうしたんやー」って聞いてるけど気にしない。

ここで止まったら絶対に白石くんに捕まっちゃう。

 

「ふぅ…」



生徒玄関まできてため息ひとつ。うしろをみると誰もいない。
よし…!白石くんはきっともう明日には忘れるだろう。
それに、他の人を誘うと思う。



ちゃぁぁぁあん」
「…っ!?!?」

 

靴を履いてあと一歩で学校を出るときに。うしろから奇妙な声がした。
女の子にしてはちょっと低い。けど男の子にしては高い声。



「えっと…こ、小春くんだっけ?」
「あら、アタシのこと知ってるの?」
「ま、まぁ…」

 

あたしの名前を呼んだのは、小春くんだった。
一氏くんとダブルス組んでて…ほ、ほもって有名だっけ…。

 

「何か用?」

 

そう聞くと小春くんはこれよ!とか言いながら白い紙を出す。
よく見ようと顔を近づけるけど、さっと小春ちゃんがその紙を隠す。

 

「え?えっと…それが何?」
「今テニス部で署名を集めているのよ」
「な、なんの?」
「テニス部人数増えてね。それでコートが足りないのよ。
だから、コートをもう1つたてるために署名が必要なの」

 

ここに名前とはんこいいかしら?
小春くんが差し出した紙はさっきの紙だけれど、名前以外は小春君の手によって
隠されて見えない。けど、小春くんだし。なんかいい子っぽいし。

ここは信じて名前書こうかな…。

 

「はんこはどうすればいいの?」
「手の諮問でいいわ」

 

インクを差し出される。言われるがままにあたしは手の指先にそのインクをつけて
紙にペタッとつける。これでいい?って言うと
小春くんはありがとうと言ってスキップしながらまた学校の中に戻っていった。

 

「いいことしたなー」

 

んーっと背伸びして学校の門を出た。
テニスコート、1つできるといいけど。
あ、けどテニス部ファンに署名集めれば一発なんじゃないかな。

 

「ま、あたしには全然関係ないことだけどねー」

 

これが始まりだなんて、このときは全然わからなかった。
どうして、名前とはんこを押してしまったんだろうって。

一回こういうの書いてみたかったんです。これは長く続くよ、たぶん。 09.11.22
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