![]() 「おっまえ、何回言ったらわっかんねん!」 屋上に一氏くんの怒鳴り声が響いた。 まだ慣れていないわたしは肩をびくりと揺らす。 今日は何がいけないんだろう。 お弁当箱は小春くんと選んでうさぎがのってるのにした(それがめっちゃ可愛いんだって。小春くんまじセンスいいわ) ローファーは踏んでない(踏んでた跡はついてるけど)髪もいつもより気合を入れて整えてきた(と言っても昨日ちゃんと乾かしただけです) もらったネイルもちゃんとつけてる。 「足!」 「足?」 「口!」 「口?いやいや、一氏くん。名詞だけ言われても困るんだけど。国語苦手?」 「ちゃうわ!足を広げて食べるな!口あけて食べるな!あと国語はまぁまぁ好きや!」 「あ、そなの?国語なー、現代文は好きだけど、古文は苦手」 「そこやないやろ。もう一回言うたろか?俺は 『足を広げて食べるな!口あけて食べるな!』って言ったんや」 「…はい」 小春くんが生徒会で来られなくなったときから一氏くんは一段とスパルタに なったような気がする。教えてくれたり、頑張ってくれてるのは嬉しいんだけどね! それにこの時間が最近では楽しくなってきてる気がする。一氏くんが最初の頃よりは心開いてくれている感じだし。 じっと見ていると一氏くんがその視線に気付いたようで「何や」と睨んできた。 「わたしも少し一氏くんと仲良くなれてきたかな、と」 「甘いわ。お前と仲良うなりたいとか思てないし」 「ひっど」 「だいたいなんで女と仲良うならんとあかんのや。俺には小春がおるし」 そういえば、一氏くんが女子としゃべってるのそんなに見たことないな、とふと思う。 いや、ぶっちゃけこのつい最近彼の存在を知ったので、わたしが知らないだけかもしれない。 …いや、やっぱり見たことないって。ここ数週間一氏くんの教室に何度か訪れているけれど 女子とまったく喋ってないし。女子が一氏くんを恐れて、近付かないだけなのか。 一氏くんが本当に女子が嫌いで自分から近付かないだけか。…なんかどっちも当てはまる気がする。 「一氏くん、もしかして女子苦手とか?」 「苦手っつーよりも、嫌い」 むすっと答える(ちょっと可愛いとか思っちゃったり) 「女と喋ることなんてないやん」 「まぁ、そう言われればそうだけど」 「性別違うモンが話合うなんて滅多にないない」 手を振りながら言う。 そうかなぁ、そんなことないと思うけどなぁ、と返すけど彼はまた否定をする。 でもわたしには普通に喋ってくれるようになったよね、と言うと少しだけ彼はきょとん、とした顔をする。 しかしすぐにいつもの仏頂面に戻って「勘違いすんなや」と箸でこちらを指差してきた(ちょっと行儀悪いよ) 「言うたやんけ。俺あんまりお前のこと女として見てないって」 「初耳ですけど。てかひどい」 「がに股で歩いたりあぐらかいたりする女をどう女と見ろと」 「ほんっとに容赦ないですね。まぁ、見ててね、わたし女の子らしくなるんだから」 「俺の協力のもとでな」 「ごもっともです」 でも確かに女の子らしくなってきてる、のかな。友達に最近変わったね、って言われたし(すごく嬉しかった) 「じゃあ、今日はここら辺でな」 もうすぐでチャイムが鳴ろうとしたときに一氏くんが立ち上がる。 この瞬間、少し寂しくなってしまうのは、どうしてなんだろう。 わたしは一氏くんにいつものように「また明日ね」という。 すると彼は、「おう」と手を上げて屋上を出て行った。 最初の頃は無視してそのまま行っていたのに。今では不思議なくらい。 わたしもお弁当を片付けて教室に戻ろうとすると、そこには一氏くんの体操服があった (彼は4時間目の体育の後そのまま屋上に来てくれたのだ) 一氏くんもドジなことするんだな、と思いながらまだ時間があるので届けることにした。 一氏くんの教室へ向かっているとどうやら生徒会の集まりを終えた小春くんが前を歩いていて、 後ろから名前を呼んだ。すると小春くんは可愛らしい声で「ちゃん!」と駆け寄ってきた。 「久しぶりやねぇ。どう?ユウくんとは」 「うん。最近すっごく心開いてくれたような気がする」 「そう!よかったわぁ。ちょっと2人だけって心配してたのよ。ユウくん女の子の前だとあんまり喋らないから」 「あ、ちょうどその話してたの。一氏くんて女の子嫌いなんだってね」 そう言うと、小春くんは「嫌い、ねぇ」と苦笑いした。 違うの?と聞こうとすると遠くから「ちょっと一氏くーん」と声が聞こえた。 視線を向けると、一氏くんが女の子と話をしているのが見えた。 「ユウくん、嫌いとかじゃなくて、女の子に慣れてないと思うのよねぇ。あれ、きっと照れてるだけなのよ」 ほら。わたしはそう小春くんに言われてまた一氏くんを見る。 一氏くんは口をヘの字にまげて少し視線を泳がせてどもりながら女の子と喋っていた。確かに、嫌いというか ただあれは照れてああなっているように見える(ほんとに女の子に慣れてないのか、あのひとは) 「てか、わたしの前ではあんなの見せないし…」 なにあれ。そういいながら身体は勝手に動いていた。後ろで小春くんが「え?ちゃん?」と言っていたけれど知らない。 気付いたら彼らの前にいて「ひ、一氏くん!」と名前を呼んでいた。 一氏くんはわたしに気付くとびっくりした顔をしながら「お前なんでここにおんねん」と聞いてきた。 「あと何度言うたらわかんねや。俺はひ、一氏くんやあらへんて」 「ごめん、なおす。あの、体操服忘れてったよ」 「あー、悪いな。わざわざどうも。お前もいいとこあんねやな」 差し出した体操服を一氏くんが掴もうとした。 だけどわたしは何故か差し出した体操服をとっさに後ろにまわしてしまった。 掴みかけていた一氏くんの手が空ぶる。「あ゛?」と図太い声が聞こえる。 「あ、あの、わたし6時間目体育なんだけど体操服忘れて。だから一氏くんの借りてもいい!?」 「はあ?なんでお前に貸さなあかんのや。お前にはでかいやろこれ!」 「でかくないし!一氏くんと8センチしか違わないし!」 「お前、それ俺が身長低いって言いたいんか!?」 「違う!わたしが高いだけ!」 どうして自分がこんなことをしているのだろうか。そもそも体操服なんて忘れてない。ちゃんと持ってきている。 一氏くんが「お前意味わからん」と言うけどそれはわたしのセリフである。 一氏くんが後ろにまわって体操服を取り返そうとするので わたしはまわる。彼も追いつこうとまわる。それの繰り返しで嫌になったのかガバッと一氏くんが わたしごと捕まえてきた(え、) 「ひ、ひ、ひ、一氏くん!?」 かあっと顔が熱くなったのが自分でもわかる。 一氏くんは「お前、またいつもよりひが多いねん!」と上からこちらを見て言ってくる。 しかしわたしの近い赤い顔をみて、彼も今の状況を理解したのか「は!?」と顔を赤くしてわたしを突き飛ばした。 「勝手に抱きつくなや!」 「それわたしのせ、せりふなんだけど!!」 2人して顔を赤くしながらあたふたする。抱きついてきたの一氏くんじゃん!「お前が逃げるからやろ!」 いやでもだからって!と言いあいをしているとタイミングよく、チャイムが鳴った。 わたしはそのタイミングで「と、とにかく体操服借りてく!」と言ってとっさに逃げた。 もうこれ以上彼の顔を見てられなかったのだ(恥ずかしくて) 「ああ、どうしよう!明日顔合わせづらい!」 私は廊下を走りながら呟いた。 *** 「なんっやねん、あいつ!!!」 の後ろ姿を見て一氏は叫ぶ。まだ顔は赤いままだ。つか俺何しとんのや! さっきの出来事をもやもやと考えて後悔する。するとくすくすと笑い声が聞こえた。 振り向くとそこにはさっきまで喋っていた女子生徒。一氏と目が合うと「仲良ぇなぁ」とまた笑った。 ああ、そういえばこの人おったんやった(途中から忘れとったわ)、と一氏はさらに恥ずかしくなる。 「わたし途中から邪魔者だったね。嫉妬しちゃったのかな、あの子」 「…は?何言っとんのや」 「わかってないなぁ〜、乙女心」 ね、小春ちゃん。と女生徒は言う。するとそこにはにこにこと笑っている小春の姿があった。 一氏は「こ、小春おったんか!?」と驚いた。あの一氏が小春の存在に気付いていなかったのか。 小春は「あら、さっきからずっとおったわよ」と笑った。 「なんか楽しくなっとるね、ユウくん」 一部始終を見ていた小春は呟いた。気付いてないのは本人達だけね、と心の中で思う。 一氏は何のことを言ってるのかわかっていないので「?」を浮かべている。 しかし女子生徒が「可愛い彼女さんだったね」と言うので彼はッハと何かに気付いて慌てて小春に抱きついた。 「ちゃうねん!俺は小春だけやで!さっきのは浮気ちゃうねん!事故や事故!」 てかあいつ彼女やないで!女として見とらんわ!びしり、と女子生徒に言う。だけどまた小春に向き合って「小春ぅ」と 情けない声を出す。しかし小春は必死になっている一氏を引き剥がして「そういうことちゃうわ、あんぽんたん」と厳しく言った。 TOP |