まず、朝ちゃんと髪セットしてきぃや。いつも寝癖あんの気になる」
「でもアイロンとか持ってないし」
「それは前日に乾かさんでや。風呂上がったあとは乾かせ!」
「歩くときはがに股やないって何回言えばわかんねん!!」
「小春からもらったネイルや。これ足にでもつけとけ」




一氏くんに師匠になってくださいって頼んでから早2週間。 毎日お昼に一氏くんにオシャレについて教えてもらっている。 最初の方は小春くんもいたけれど、今は来月のイベントにむけて生徒会のほうで準備があるらしく お昼は生徒会のほうにいっている。小春くんとお昼を一緒にできたのは初日だけだった。 最初の頃は小春くんがいなくて一氏くんと1対1はちょっと気まずかったけどもう慣れた。 今では少しだけど反抗もできるようになった(でもやっぱり負けてしまうのだけれど)




、彼氏とかは憧れなんやろ?」
「まぁ…。興味あるっちゃあるけど…」
「彼氏ができたら何がしたいん?」




お昼を食べ終わってのんびりしていると一氏くんが聞いてくる。 確かに彼氏ができるというのは憧れではある。 まわりはどんどん彼氏ができてとても楽しそうだし。 わたしだって彼氏ができたら、一緒に帰ったり、デートで映画見たりしたい。 水族館が好きだから、2人で水族館とかもいいかも。




「まあ、普通っちゃ、普通やな(らしいわ)」
「まあね…ってああああ!」
「なっ!?なんや!?」




水族館で思い出す。そういえば今日、久しぶりに夢を見た! そう言うと、「そんなことで急に大声出すなや…」と怒られる。 でも、その夢がすごかったんですよ。




「聞きたい?」
「聞きとうないわ。どうせつまらん話やろ」
「じゃあ聞かせてあげる!」
「いやいや別にいいわ」
「あのさー」
「(聞いてへん)」




一氏くんは口ではそう言ってはいるものの、優しいのでちゃんと聞いてくれるのは知っているので わたしはそのまま話を続ける。 夢というのは、わたしが一氏くんのおかげでオシャレさんに大変身する夢だったわけである。 指を立てて言うと一氏くんは「お、いい夢やんな」と笑ってくれた。 それでね、可愛くなるので男の子たちに呼ばれて告白されるわけ(すごいいい気分だった) モテモテじゃん。 でも、わたしはその男の子たちをサラリと振っていくのよ。何でだと思う? 何故なら好きな人がいたから!でもある日その好きな子にある日告白されるのよ。 それで即OKするんだけど。




「なんやすっげえ、リアルな夢やな…。覚えてるお前が気持ち悪いわ」
「女の子に気持ち悪い言ったらあかん」
「はー?つか、お前何人も振るとか何様やねん!一生ないわ、そないなこと」
「失礼な!あるかもしれないでしょ!」
「ないない」
「ふん。実はこの夢には続きがあるんだけど」
「もうええわ。くだらん」
「あのね」
「(わざとやなこいつ)」




その付き合った男の子は、すっごい優しくなるのよ! 手繋いでくれるし、お昼は毎日一緒にお昼食べるし、 水族館にも連れていってくれた! そしたらね、その男の子とは一緒な高校に行って 一緒な大学に行って、プロポーズされて結婚して子供産むんだよ!




「すごいでしょ?いい彼氏でしょ。一緒な高校とか大学行くのわたしの憧れ」
「まず、それまで続くかわからへんやろ」
「夢がないよ、一氏くん!」
「なんや、そういうのは女っぽいな」
「ほんと!?」




一氏くんにそう言われると嬉しい。 最初なんか、すごかったんだから。悪いところはさんざん言われるし!厳しいし。 だけどその後ぼそっと言われた「脳内の妄想だけな」と言われて 一気にテンションが下がる。そうですよ、確かにそれ以外はまだまだ女の子らしくないですよ。




「しっかし物好きな男もいるんやなぁ。みたいな奴と」
「失礼だね?本当に馬鹿にしてるでしょ?相手が知らないからそういうこと言えるんだよ」
「なんや。相手知っとる奴やったんか?」
「うん」
「白石とか?」
「どうして白石くんが出てくるかさっぱりわかんないんだけど」
「かっこいいやん。じゃあ、謙也とか。財前とか」
「なんかこの前もこういう話しなかった!?わたしがただの面食いなわけじゃないよ!?」




何度もいうけれど、白石くんとか謙也くんとか財くんとか 本当に興味ないんだってば。 そしたら一氏くんはわかったような顔をして「ああ!山Pか!」なんて言い出した。 いや、ちゃうけど。確かに山Pは好きだし告白されたら嬉しいけど アイドルとして好きなだけだし。




「じゃあ、誰なん?」




あきらかにさっきより不機嫌になってる。 そんなこと言われても、すっごく言いにくい人なのである。 わたしが言いにくくて、黙ってると、何かを察した一氏くんは 驚いた顔をして「ま、まさか!」とわたしから一歩遠ざかった(わかってしまったのか)




「空想の人か!?やったら、俺ちょっと引く」
「違うよ!言ったでしょ、知ってる人ってさっき!」
「せやった。…あああ!?小春やったら許さんぞ!」
「絶対違う!どちらかっていうと小春くんはオカ…じゃなくて女友達に入るから!」




そう言うと、一氏くんはうれしそうな顔をする。 それは、夢に出てきた人物が小春くんじゃなかったことに安心したのか それともあたしが小春くんのことを『女』としてみてることがうれしいのか。 う〜ん、一氏くんの場合どっちもかも。




「俺知らん奴か」
「えー、そういうわけじゃないんだけど…えっと…」
「おう、誰や」
「誠に申し上げにくいのですが…」
「ん」




少しの沈黙のあと、わたしは一氏くんを指差した。 一氏くんはわたしの指を見てきょとん、とちょっとより目になる(その顔がちょっと可愛かった) それからッハ、と何かに気付いて勢いよく後ろを振り向いた。でも誰もいなくて 「あ?」と口をへの字にわたしを見た。




「ひ、一氏くん…でした」
「なんや、そうかー…って、は?お前今なんつった?」
「い、いや…だからひ、一氏くん…」
「はあああああ!?」




一氏くんの声が響いた。わたしは耳をぎゅっと押さえる。 (いつもわたしにうるさいって言ってるけど一氏くんも結構うるさいし!)




「勝手に俺の許可なしでお前の夢ん中に俺を出すなや!!」
「そ、そんなこと言われても!勝手に出てきたのは一氏くんじゃん!」
「俺の所為か!?」




びっくりした。手を繋いだりとかそういところには突っ込まないのか。 なんて思いながら見てると、その視線に気付いた一氏くんが「ん?」と わたしの方を見る。思わず、ドキッと胸が鳴った。(え!?なんで!?また!?)




「…あれ、待てやコラ
「え?なに?」
「お前夢ん中で俺と何したって言うた?」
「(ひぃいい!)えっと…ですから、手を繋いだり」
「もっと重要なこと聞いた気がするんやけど」
「…プロポーズされて、…結婚して…こ、子供を…」
「お前、死なすど」




一氏くんのうしろが真っ黒なオーラで包まれている幻覚が見える。 彼はガシッとわたしの頭を掴んだ(痛い痛いいたい!) でも反抗できるはずもなく。さらに、ものすごく幸せな夢でした…! なんて本人に言えるはずもなく。 わたしは「ご、ごめん…」と謝る。一氏くんは「お」と何かひらめいたようで 少しだけ笑った。




「まぁ、夢を人に話すと叶わんっちゅーの聞いたことあるでな」
「え、じゃあ。嫌なの?その夢の通りになったら」
「当たり前や。俺は小春とハッピーエンドやし」




なんでなんかと。とため息をついた。 出たよ…。さっきのドキッとしたのはどこにいったんだろう。 今ものすごく一氏くんが気持ち悪く思えます。 黙ってれば、ものすごくかっこいいのに。小春くんのことになると…はぁ。 思わずため息が出ちゃう。




「けど、俺のおかげでオシャレになるっていうのは現実になるとええな」




ニッと笑った顔を見て、胸が高鳴る。 ああああ!なんで!?どうしてこんなに胸がドキドキするんだろう。 きっと今のわたしは真っ赤だと思う。 なんで?誰か教えてください。そうだ、小春くん…!(あ、今生徒会でいないんだった!)







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