![]() 「一氏くーん…」 お昼休みに、一氏くんの教室のドアから顔を覗かせて名前を呼んでみる。 返事はない(そもそもいるかどうかもわからない) 私は他のクラスにずかずかと入る勇気は持っていないので、こうやって名前を呼ぶことしかできない。 だからもう一度呼ぼうとしたら目の前に座っている子が「あかん!あかん!もっと大きな声で呼ばな!」と 言ってきたので私は「ひ、一氏くん!」と声を張り上げて呼んでみた。 その瞬間に後ろから「うっさいねん、アホ」と頭をたたかれた。振り返って見てみると、 そこには一氏くんがいた。 「え?いつからいた?」 「お前がここ立ってたときから」 「声かけろし!」 「いや、お前も気付けし。あとからかわれたことも気付けし」 ん、と一氏くんは私の後ろを見る。振り返ると先程指摘してくれた子が腹をかかえて笑っていた。 ひっどいな、この人。後ろに一氏くんがいるのわかってたなら教えてくれればいいのに。 軽く睨むと彼は「すまん。おもしろくって」と言ってそそくさと逃げていってしまった。 「あとひ、一氏って名前やないで。ひ、一つ多いねん」 「(細けぇ)ごめん。気をつける」 「ん。で?俺に何か用か?」 「それが…って。今日は小春くんと一緒じゃないんだ?(いつも一緒だし)」 「ああ、…小春は…今日から生徒会で忙しくなるんや…」 小春くんのことを聞いたとたんに、一氏くんはずーんと落ち込んでしまった。 本当に小春くんのこと好きなんだなこの人。 なんて思ってると、一氏くんは「で?何なん?」と聞いてきた。 ああ、そうだった。小春くんのことは置いといて。 「あのさ、友達が恋をするとかわいくなるのよって言ってたんだけど!」 そう言ったら、一氏くんは目を点にさせて私を見る。 しばらくの沈黙のあと、やっと口を開いてくれたと思ったら、ひどい言葉だった。 「恋して可愛くなる?阿呆か」 ッケ、何を言うとるんじゃお前は。というような顔をして あたしを見た一氏くんは本当にひどかった(きっとこれは小春くんの前では絶対に見せない顔だ) 一瞬で、恋をしたら可愛くなる?なんていう期待は崩れ落ちた。 「まぁ、確かに可愛くなるモンもおるわなぁ」 けど、それは自然と可愛くなるっちゅー意味やないねん。 好きな男できると可愛くなりたい思うやろ? そのために女は化粧やらダイエットをして可愛くなるんや。 「は恋すると自然に可愛くなる思ってたやろ?」 最後にズバリと言われる。 悔しいけど、一氏くんの言う通りである。 はあ、とため息をついてしまう。 「ほんとに一氏くんてはっきり言うんだね…」 「あぁ?何か言ったか?」 「何も」 一氏くんは耳が良いと思う。今だってほんとに小さい声で言ったのに。 これから気をつけよう。 「用件はそれだけか?」 「うん、そうだけどー…うーん」 「何や、まだあるんか?」 「お昼一緒に食べようかなぁなんて…思っちゃったりして…」 「…は?え?…な、何言うとんのやお前」 「ええ?勇気振り絞って誘ったのにその反応何!?」 「いや、別に。今の普通の女子みたいやなー思って(一瞬ドキッとしたのはき、気のせいや)」 「ええ!?ほんと!?女の子らしかった!?っていうか普通の女の子だし!?」 「いちいちうっさいねん。まぁ、小春おらんし。1人で食べるよりはマシやな」 入れや、一氏くんはそう言って自分の机のところに案内してくれた。 失礼しまーすと言いながら一氏くんと教室に入ると、 まわりの生徒から驚いた目で見られた。なんだなんだ。 そうか、小春くんじゃないからか。みなさん誤解しないでいただきたい。 一氏くんが浮気してるわけじゃないから! 「で。お前は恋がしたいん?」 小春くんのイスを借りて一氏くんの机で2人で向き合って食べることにした。 しばらく沈黙だったが、破ってきたのは一氏くんだった。 私はその質問にもぐもぐと卵焼きを口に含みながら頷いた。 それから喋ろうとしたけど一氏くんがすかさず「言っとくけど飲み込んでから喋れや?」 と私から少し距離をとって言ってきたので私(ひどい)と思いながら おとなしく卵焼きを飲み込んでから喋り始める。 「したいっていうか…かわいくなるって聞いたから興味あって」 「ちなみに聞くけどお前は今までしたことあるん?恋」 「…えっと…一応、あるのかな…?」 「どいつや?ここの学校か?」 「いや、テレビの中の山ぴーに…えへ」 「えへ、じゃあらへんわ。それ恋って言わんのや」 これ、おいしそうやな。もらうで。 最後の卵焼きを取られながら言われた。 「山ぴーっていうと、お前イケメン好きなんか?」 「そうなのかなぁ…。でもそんなに興味ないし…」 「イケメンっていうと白石どや」 「あー白石くん?」 白石くんとは、2年生のときに同じクラスになったことがあった。 懐かしいなぁ…。まわりの女子みんな狙ってたっけ。 確かにかっこいいけど、好きになったらまわりが大変そう。 「じゃあ謙也なんてどうや?」 「謙也くんおもしろいよね!委員会一緒だけど一緒にいて楽しい」 「じゃあ、謙也でいいやん」 「えー、友達だもん。恋愛対象にはなんないや」 「…じゃあ、財前」 「ピアスしてるし、いっつもしかめっ面してるからなんか怖そう…」 「そんな我侭な。一生恋できへんタイプやわ」 「えー、なんでー?」 「やって、女がみんな一回は好きになりそうな奴等のことどうも思ってへんやん」 「だって、本当にそうなんですもん」 「はぁ〜…。ほんまにお前の友達が言ったこと理解できるわ」 えっと。つまり女の子らしくないってことですね。 私はため息を一つついて窓の外を見つめた。 そこには白石くんがいた。 何度見ても、かっこいいとは思うけど本当にただそれだけしか思わない。 それはいつも私だけだった。 みんな白石くんを見るとキャーっていうし、彼氏になりたいとか口に出すし。 やっぱり、女の子じゃないのかなぁ…。 「けど、心配すんなや。俺がお前を女らしくしてやるからな!!!」 ニイッと無邪気な笑顔で言われた。 一瞬ドキッと胸がなる。胸がなる?ん?んんん!? 「何や、顔赤いでお前」 「うわああっ!?急に目の前に現れないでよ!?」 「はあ?最初からおったし!!!」 「い、いいから!」 「はあ?気持ち悪」 「…うっさい!!!」 顔が赤くなったのも、一瞬ドキッとしたのも、気のせいだ。 誰も一氏くんに対してじゃない…! 言われた言葉がちょっとかっこよく思えたからだである(そう信じたい) 頭を振っているとをパシンッとたたかれた。 頭を押さえて上を見上げると、一氏くんが怖い顔してあたしを見下ろしていた。 よくたたくなあ、この人。 「お前、今なんて?」 「え?何が…?」 「この俺にうっさいって言ったな?オシャレの師匠に何やその言葉。死なすど」 「す、すんませええん!!!」 そうだよ。こんなスパルタで怖い人になんてときめくわけないじゃないか。 それに小春くんLOVEだし。うん、そうだ。 さっきのは気のせいだ。そうだよね?(誰か答えてください) TOP |