おるか?」




いつのものように友達と机を寄せ合ってお昼を食べようとしていたところで、名前を呼ばれる。 見てみると私の名前を呼んだのは一氏くんだった。 私は慌てて教室のドアまで近寄って「どうしたの」と声をかける。




「どうしたの、やあらへんわ。今日から会議始めるんやろ?」
「は?会議?」




問い返すと彼はぐっと眉を寄せた。聞いてないよ?と言うと「小春が言うてたんや」と言った。 どうやら今日からお昼に屋上でオシャレについていろいろ勉強しよう、と小春くんが提案したらしい。 確かに彼らはテニス部で放課後は無理なので、ゆっくり話せるのはお昼しかない。 けれどまあ連絡くらいしてくれたっていいじゃないの、と思ったのだがそういえば連絡先を 知らないので、ここまで来てくれたのは有難いことである。




「わざわざ8組からこんな遠い1組までご苦労様です…」
「ほんまやわ。小春に頼まれたで仕方なくやぞ、コラ」
「すんません〜…(怖い!怖い!)」




どうせなら小春くんに迎えに来てほしかった、とは口が裂けても言えない。 一氏くんは怖そうで(いや実際口が悪いし目つきも悪いから怖い)まだハジメマシテから 1日しか経ってないから気を抜くこともできない。 何よりテニス部で人気だし、女子から視線が痛い!(遠くにいるユウだってすっごい目で私を見てる) はあ、と小さくため息をつくと一氏くんにどつかれた(ッギャ)




「何ボケッと突っ立ってんねん。弁当とってこい」




はいぃ!と勢いよく返事をして私は自分の席にとりあえず戻った。 ユウは苦笑いして「いつの間にあの人と仲良くなったの?」と聞いてくる。 まさかオシャレの師匠になってもらったなんていえるわけないので「いろいろあった」と告げた。 とりあえずここしばらくはお昼一緒に食べれないと言うとユウは「いいよ、一氏くんとよろしくやってきても」 と笑われた。だから、そんなんじゃないってば、と言おうとしたら頭をゴツンと誰かに殴られた(痛い!) 押さえながら振り向くと、さっきドアのところにいた一氏くんが目の前に立っていた(えぇ?)




「おっまえ、俺をいつまで待たせるつもりやねん!」




この人は私のことを女の子と思っているのかな。今思いっきりぐーでたたいたよね?ね? たたかれたところをさすりながら一氏くんにそう聞くと「俺の辞書に手加減っちゅーもんはないんや」と 返された。次には制服の襟をがしっと掴まれてずるずるを引きずられる。 どうやらこのまま屋上に行こうとしているらしい。ユウに「頑張って」と笑顔で手をふられた。




「離して!痛い!それに恥ずかしい!」
「お前歩くのトロそうやで却下」
「速く歩きますから!お願いだから!」




男には笑われ、女にはちょっと冷たい目線で見られる。 これ明日からイジメられたら一氏くんのせいだからね!?(なんて本人には言えないんだけど) 必死に抵抗していると一氏くんは渋々離してくれた。襟を直しているともう早速構わずに 一氏くんは歩き出すので、また引っ張られないように急いで彼の後を追った。




「小春〜」




屋上に着くと既に小春くんが座って待っていた。 小春くんを見つけるとさっきまでの一氏くんとは別人のように甘い声を出して 小春くんに抱きついた。ちょっと、さっきまでの私に対しての態度と全然違うじゃん! 一氏くんを睨みつけていたら、一氏くんがその視線に気付いて負けじと睨みつけて、 「何や」とか言ってきた。でもやっぱり私は勝てなくて「別に」と視線を逸らした。 そして小春くんを挟んで私も座る。




「これからお昼はオシャレの勉強ね」
「はーい」
「お前遅れるなや」
「ど、努力します」
「ユウくん、そうツンツンしないの。さて、お昼食べながらにしましょ」




小春くんが弁当をひろげたので、私も一氏くんも弁当を広げた。 食べながら小春くんは鞄から大量の雑誌を出してくる。 見てみると、ファッション雑誌のようだ。だけどこれだけ持っているのに びっくりする。本当に小春くんは女の子に負けないくらい、研究してるんだなあって。 なんか負けた気がした…!私、女の子なのに…! ユウに言われたことがわかった気がする…!




「まずはどんな系統がいいかしら?」
「系統というと?」




そう聞くと小春くんは待ってましたと言わんばかりに、目をキラキラさせて 大量の雑誌から何冊かを抜いてペラペラとページをめくり始めた。 そしてその雑誌を私の前に並べた。思わず一氏くんと声を揃えて「うおぉ」と驚く。




「お姉系とか綺麗系はどう?清楚な感じよ。あー、でもOLとか向けだから早いかしら」
「あかんあかん。は童顔やで服に着せられてまうわ」
「じゃあ今時のギャル系?」
「あっかん!濃いメイクしてミニスカ金髪はあかん!」
「いやいや。全部のギャルがミニスカ金髪なわけないじゃん」
「とにかくギャルはやめや。男からはいい印象ないで」
「そうね。それは言えるわ。じゃあガーリッシュ系は?」
「あかんあかん!こいつリボンとか花系とちゃうやろ!」
「ゴスロリは…アタシはオススメしないんだけど…」
「いや、フリフリとか…無理やろ」
「ロックとか?」
「こんな弱そうな顔してロック系やったらびっくりするで」
「森ガールとかは似合いそうやけどねぇ、千尋ちゃん」
「森ガールゥ?無理無理!」
「ちょっと!?さっきから大人しく聞いてれば何!?否定しすぎでしょ!」
「いや、お前に無理なモンは無理やて。事実言うてるだけやし」




お前のためにでもあるんや!なんて言っているけれど絶対違うでしょ。 確かにフリフリとかは似合わないのはわかってるけど。 全部否定して、じゃあ逆に何が似合うのって話じゃん?




「じゃあ逆に聞くわ。お前普段どんな格好してんねや」
「どんな格好…?」
「出掛けるときや」
「ジャージかな」
「…ほんま?え?友達と遊ぶときも?」
「いや、流石に遊ぶときはちゃんとした服着るけど…」




至ってシンプルなやつです。と答えると小春くんは苦笑い。 一氏くんには「だからお前友達にあんなひどいこと言われたんやな」と言われた。




「だいたいなぁ、お前本当にアカンで」
「え?何が」
「まず、なんや。そのお弁当箱!ポ○モンてどういうことやねん!」
「可愛いから…え、可愛いでしょ?ピカ○ュウ」
「ポ○モンは小学で卒業せえや!女やったら、花柄とかストライプのとか。キャラクターにしたって ディ○ニーとか、サン○オとかあるやろ!」
「え〜、結構気に入ってるんだけどなぁ…」
「あと座り方!あぐらかいてどうすんねん!パンツ見えとるやん!」
「ちょ、ちょっとユウくん…(パンツ見えとるて…)」
「じゃ、じゃあ、正座します…」
「(パンツ見えとるに突っ込まんのか、ちゃん…)」
「それから女やったらキャッとか言うやろ!なんやさっきのギャッとか!怪獣のうなり声やん!」




うわー!なんか全部を否定されている! 一氏くんは次から次へと私のダメなところを言っていく。 もしかしてこれ、キリないんじゃないってくらい出てくる。 思わず、隣にいる小春くんとポカンと口をあけて一氏くんを見る。




「女でくいだおれ丼二十分で完食したってやつお前やったんやな!ありえんわ!それに ローファーは踏んで歩いてるし!」
「うわあ!なんでそんなことまで知ってるの!?別に食いだおれ丼はよくない!?」
「その油断があかんねん!食いだおれ丼1人で二十分で完食する女なんて初めて見たわ! お前ほんっと女のカケラもないな!」
「…いや、だから。女の子らしくなるためにアンタたちに昨日頼んだんだからね?」
「あ。せやった。本題を忘れるとこやったわ」




ま、お前には直すところがぎょうさんあるっちゅーことや! わたしの背中をバンッと思いっきりたたいてそう言った。 本当にわたし、女の子らしくなるのかなあ…。 一氏くんの口から出たわたしの悪いことを聞いてなんだか自身がなくなってきた(たくさんありすぎて)




「とりあえず、ローファー踏むのだけはやめよう…」




だって、食いだおれをもう食べなくなるなんて嫌だし…、お弁当箱のポ○モンは本当に 気に入ってるし、あぐらは楽だし…。全部すぐにはやめられない。




「アホ。それ直さんと女の子らしくならんっちゅーねん」




次は頭をたたかれてから、そういわれた。 が、頑張ります…。







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