![]() 中庭であぐらをかいてむしゃむしゃとパンを食べていると友達のユウがこう言った。 「って本当に女?ってときどき思うくらい女っぽくないよね」 確かに私は、ファッション雑誌なんていうものを買っていないし、 化粧だってしたことない。オシャレにだってあまり興味がない。 普通にあぐらをかいてしまうし、寝癖だってそのままのときもある。パンだって大量に買う。 気にしたことはない。これが私である。 だけどこうはっきり言われるとなんだかショックで。 そのときはいつもみたいに「これが私なの」と言ってみせたが内心ではすごく焦っていた。 「あの、小春くんいますか?」 言われてから一週間。雑誌を買ってみたりしたけど今までやったことがないことを自分1人で やるのは難しくて。だからと言ってユウに協力してもらうのもなんだか恥ずかしい。 というか、ユウを見返してやりたいのだ。変わった姿を。だからあえてえ彼女には 頼まないことにした。いくつか方法はあるかもしれないけれど、私が選んだのは小春くんだ。 小春くんは男だけどオシャレには詳しいって聞くし、女友達みたいに接することができる、と 友達がいつしか言っていたのを思い出したのだ。同性にオシャレについて聞いて笑われるより 異性に聞いて笑われるほうがよっぽど私にはマシな話である。 「おるでー!あそこ!」 1組から階の違う8組へ。入り口に立っていた男子生徒に声をかけると教室の窓側を指差した。 そこに目線を向けると不思議な光景が広がっていた。 男2人がいちゃいちゃしているのである。確かにあっち系とは聞いていたけれど…。 それに小春くんとはどちらだろうか(実は名前や噂は聞いたことあるけれど、実際顔は知らない) 私の勝手な判断だけど、バンダナの人が小春くんな気がする!(オシャレっぽいし) 「あの、私のオシャレの師匠になってくださいませんか!」 私は彼の前まで来て頭を下げた。すると彼は間を置いてから「はあ?」と嫌そうな顔をした。 隣の眼鏡の彼は「あらあら」と微笑んだ。やっべえ、ちょっと唐突すぎたかな、これ。 「いやいや、師匠て何やねん」 「ですから、オシャレの」 「意味わからんわ。そもそも初対面の奴に言われたない」 「あ、そうだった。申し遅れました、と申します」 「か、おんよろしゅう…ってそういう意味ちゃうわ!」 「え?じゃあ他に何か不満でも?」 「全部や!」 そんな漫才みたいな会話をしているとクラスにどっと笑いが起きた。 そんなクラスメイトらに彼は「お前等これ漫才ちゃうねん!笑うなや!」と叫んでいる。 私をキッと睨んで続けた。 「俺、女は興味ないねん」 「ですから、その女の子になるために私の師匠に!」 「意味わからんわ!つか、女のオシャレとかわからへんし」 「あら、アタシの雑誌とか見てるから大丈夫でしょ?」 「せ、せやかてなぁ…」 雑誌?この眼鏡の人もオシャレに関した雑誌を見ているのだろうか? あれ、もしかして眼鏡のほうが小春くん…?いやいや。ないない(あくまでも私の考えだが) 外見で判断しちゃいけないってよく言うけど、やっぱりバンダナのほうがかっこよくて、オシャレっぽそうだし。 (小春って名前のイメージではないけれど) 「やってあげたら?」 「俺、そんなにお人好しでないで!」 「そこをなんとかお願いします!」 「なんでや。そもそも理由言え、り・ゆ・う!」 私は彼に友達に言われたことをお話しました。 途中で「ひっどい奴やなぁ。そいつほんまに友達か?」と馬鹿にされたけれど 私は「そんなことないです」と言っておいた。たぶん友達も嫌味っぽく言ったわけではないと思うし。 そう話し終えるといきなり彼は机をバンッとたたいてその場に立ち上がった。ん? 「その友達に見返してやりたいんやな!?」 「え、うん…」 「見返すのって俺好きや!よっしゃ協力したる!」 「…ほんまですか!?よ、よろしくお願いします!!」 「おう!この一氏ユウジ様がお前をオシャレにするでえ!」 「はい!…え?」 …え?今なんと?一氏ユウジさま?あれ、彼は小春くんではないの? もしかして隣にいる眼鏡の彼が小春くんだったの? うっそ!失敗した!!間違って一氏くんのほうに頼んじゃった!? で、でも今更「人違いでした…、てへっ★」なんて言えないし!? 本人むっちゃやる気やし!? 「ちゃん、言うたっけ?」 そんなことをぐるぐる考えていたら 一氏くんがいつの間にかいなくなっていたことに気付いた(トイレかな) そして、本当の小春くんが私に喋り掛けてくる。 「アタシの勘やけどねぇ、さっき驚いた様子を見てるとアタシとユウくん間違えたんじゃない?」 「うん。てっきり、一氏くんのほうが小春くんかと…」 「やっぱりねぇ」 「でも、今更言えないよね。本人すっごいやる気出たみたいだし」 「大丈夫よ。ユウくんオシャレだから」 アタシが保障するわ☆と言った小春くんはウインクする。 どうやら一氏くんも小春くんと一緒に雑誌やらを見ているらしい(常に2人一緒らしいから) それに小春くんも協力してくれるとのことなので、別に大丈夫かな。 よろしくお願いします、と頭を下げれば小春くんも「いえいえ」と頭を下げた。 ちょうどいいタイミングで一氏くんが帰ってきて「お前ら何しとんのん」と言われた。 え、挨拶です。そう言うと一氏くんは小春くんをぎゅっと抱きしめる。 「協力はするけどなあ、小春には手ぇ出すなよ!?」 いやいや、出しませんから。 TOP |