目が覚めた。…あれ、昨日何したんだっけ。ああ、そうそう。喫茶店へ行って 雑渡さんに日本酒がたくさんあるお店に連れて行ってもらって…やばいそこから記憶全然ない。 いや、でも今ベッドの上にいるわけだし、無事家には帰れ……いやいや。私のベッドのシーツは黒じゃない。 ここ私の家じゃない!じゃあ、誰の家!?そう思って立ち上がろうとしたところで気付く。 あれ…私いま裸。サアッと血の気が引いた。慌ててそばにあったシーツで体を隠す。うそ、誰と…。

そのときにもぞもぞと布団が動いた。隣にまだいる。恐る恐る隣を見てみると…、



「雑渡さん!?」



雑渡さんだった。うそ、昨日酔った勢いで?私は何かしでかしてしまったのだろうか。 私は酒に強いほうなので、記憶がとんでしまうほど酔ったことはない。 しかし、今回は日本酒で加減も知らなかったためぐいぐいと飲んでしまった。 まったく昨日の記憶がない。よく酔った勢いで変なことをしてしまう、というのが あるみたいだけど、私は何をしてしまったのだろう。 あたふたしていると雑渡さんが目を覚ます。最初はぼんやりとしていたけど、 私を見た瞬間、カッと目を見開いてその場で土下座をした。



「ごめん、ちゃん、ちょっと酔った勢いで。ちょっとじゃ済まされないよね。 でも言い訳に聞こえるかもしれないけど、昨日は私も君も結構酔ってたんだ。 車で帰るわけにはいかなかったから、ちょうど私のマンションが 近くにあるからを連れて帰った。もちろん、そのときは手を出すつもりはなかった。いやマジで 私も悪いけどちゃんがあんなこと言うからだね…」



早口でぺらぺらという。やはり、私は何かしでかしてしまったのか。その先は雑渡さんは言わなかった。 ずっと黙り込んでいる。…うそ、私まじでそんな雑渡さんが黙り込んじゃうほど変なこと言いました? 何言ったんです?と静かに聞くと雑渡さんはようやく口を開く。そして気まずそうに言った。



「好きです、って言ったんだけどちゃん」



私はその場でベランダから飛び降りたいくらいに羞恥心でいっぱいだった。 酔った私はそんなことを言ったのか。よくまあ、そんなことを言えたものだ(自分なのだが) 雑渡さんは気まずそうに視線を横にずらしている。

しかし、酔った勢いで言ったものの、その、好き、というのは本当だ。 喫茶店でしか会ったことないから雑渡さんのことは全然知らない。 けれど彼はかっこよくて、優しくて。私は惚れてしまった。といってもこの感情に気付いたのは昨日だ。 しかし感情に気付いて早々、酔った勢いで言ってしまった自分は馬鹿だと思う。



「わかってるよ。そんなこと思っていないことくらいは。しかし、我慢ができなかったみたいだ、私は」



ハッと自分に笑ってから悲しげな目で私を見る。「このことは忘れよう。なかったことにする」ごめんね、雑渡さんが謝る。 謝るのはこっちのほうだ。それに、忘れたくない。なかったことにしたくない。私は嫌です、と答えた。



「残念ながら昨日の夜のことは、あまり覚えてません。もちろん、その「好き」って言ったことも…覚えてないです。だけど、だけど」
「雑渡さんを好きなのは、本当です」



なかったことになんかしたくありません。そういうと雑渡さんは私をシーツごとふわりと抱きしめた。 雑渡さんは耳元で「こんなおじさんでいいの」と聞いてきた。そういえば会うたびこの人は 「おじさんだけど」というのを強調する。そんなに気にしているのか、自分がおじさんだということを。 (ていうかそもそも、そんなにおじさんってほど歳とってるわけでもないのに)



「雑渡さんじゃなきゃだめです、って言ったら嬉しいですか?」
「うん、すごい嬉しいね、それ」



にへらって笑う雑渡さんにどきっとする。



ちゃん好きだよ」
「うん。私も雑渡さんのこと好き。もっと雑渡さんのこと知りたい」
「これから嫌ってほど知っていくさ」
「じゃあ、私のことも嫌ってほど知っていくと思いますよ」
「それでいい」



抱きしめながらちゅ、と私のおでこにキスをした。 それから、んーと雑渡さんは唸りだす。どうしたの?って聞けば雑渡さんは耳元でささやいた。



「したい」



私は笑ってうなずいた。