![]() ここは雑渡さんの知り合いが経営する居酒屋らしい。 和風ですごく素敵で、入った瞬間「うわあ!素敵!」とつい口に出してしまった。 雑渡さんはそんな私を見て微笑んだ。 「何飲む?…って、ちゃん初めてだっけ。日本酒わかる?」 「全然わかんないです。雑渡さんのおすすめとかがいいなー」 「私のおすすめねえ。結構キツいけど」 「言ったじゃないですか。私強いんですって」 そう言うと雑渡さんは「そうだったね」とくしゃりと笑った。どきん。ほらまた胸が高鳴る。 どうしたんだろう。お店の雰囲気もあってか、雑渡さんがいつもよりいや、さらにかっこよく見える。 「じゃあ、乾杯」 日本酒とおつまみが届いて私達は早速お酒を飲み始める。初めての日本酒。 ビールのようにぐいっと飲むと喉がじーんと熱くなってきた。うわ、日本酒ってすごいアルコール強い。 でも、まずくはない。くせになる味だ。私の友達は日本酒は無理、とか言っていたけど 私は結構いけるかもしれない。 お酒を飲みながら雑渡さんといろいろ喋っていると、「雑渡さんだあ」と甘ったるい声が聞こえた。 振り返って見ると、そこには美女が二人。たぶん、ここの店員だろう。 店長と雑渡さんは知り合いだって言ってたし、何度も来てるみたいだから、店員も知っているのだろう。 雑渡さんは「久しぶりだね」と彼女らと話を始めた。 私はもちろん、話に加われるわけないので、ちまちまとお酒を飲み続けている。 「ごめん、ちゃん。ちょっと知り合いに挨拶してくるよ」 雑渡さんはそれだけ言うと美女二人に囲まれながら店長らしき人がいるカウンターへと向かっていった。 ああ、美女二人に囲まれちゃって嬉しそうだったな。思わず私は自分の胸を見る。うん、小さい。 もやもやする。カウンターのほうを見ると楽しそうに喋っている雑渡さん、店長さん、美女二人。 ああ、気持ち悪い。もやもやする。いらいらする。たぶん、これ嫉妬だなあ。 雑渡さんもかっこいもん。優しいもん、素敵だもん。そりゃモテるって。 「一人?」 じいっとカウンターを見ていると、若い男の人が声をかけてきた。 見てわかるでしょう。向かいの席に、コップあるの。今までそこに座っている人はあっちにいるけど。 まあ、確かに今は一人だけど。 「一緒に飲まない?」 なんだ、これはナンパだろうか。一番最初に会ったときの雑渡さんもこんな感じだったけど、嫌じゃなかった。 なのに、今目の前にいるこの人は嫌だ。ていうか、雑渡さんいるし。一緒に飲むわけないでしょうが! 一人じゃないんで、いいですって断っても彼は椅子に座ろうとする。 いやまじで雑渡さんの席だから、そこ!!!!私はぐいっと彼を押す(座らせるもんか!) すると彼は勘違いをした。あはは、と笑って「あ、隣のほうがいい?」なワケあるかああああ! 私の腕を掴むな!やめて! 「どいてくれないかな」 もう、まじでやめて!と言おうとしたときに男の手が振り払われた。 かわりに雑渡さんが私の腕を掴んでいる。そして私を彼から隠すように前に立った。 低い声と威圧感に怖くなったのか、男は顔を青ざめて「失礼しました…!」と言って去っていく。 雑渡さんはくるりと私のほうに向いて「大丈夫?」といつもの調子に戻って聞いてきた。 どくん、どくん、と私の胸は高鳴る。 「た、助かりました」 「ごめんね、私が席をはずしたばかりに」 「いえ。大丈夫です」 雑渡さんは座ってお酒を注いだ。私のコップにもお酒を注いでくれた。 それから私は遠くにいる美女二人を見る。ああ、すっげえ美人。 「さっきの人すごい美人さんでしたね」 「ああ、あの子たち?看板娘だからね」 「雑渡さんああいうの好き、そう」 「いや、私はちゃんみたいな子が好きかな」 ね?と言ってくる雑渡さん。私は慌ててお酒を飲みながら視線を逸らす。 「顔真っ赤だよ」ってにやにやと笑いながらからかってくる雑渡さんに私は「お酒のせいです!」って言った。 もちろん、お酒のせいじゃない。私はそのあとちらりと雑渡さんを見る。しかし雑渡さんはまだこちらを見ていたようで、目が合った。 目が合うと雑渡さんは絶対に微笑む。それに私はまたどきり、と胸が鳴る。 私は日本酒をごくん、と一気飲みした。ああ、どうやら私は雑渡さんが好きみたいだ。 ぼんやりした頭で、私はそう思った。 ![]() |