雑渡昆奈門。それが彼の名前だった。 もう既に三回もこの喫茶店で会っている。 私のことは質問攻めのくせに雑渡さんは何一つ答えてくれない。



「年齢くらい教えてくれてもいいじゃないですか」
「言える年齢じゃないよ」
「嘘だあ。雑渡さん若いですもん」
「お世辞でも嬉しいねえ」



お世辞じゃない。本当に雑渡さんは若いと思っている。 スーツがこんなにも似合う。コーヒーを飲んでいる姿が素敵。 この喫茶店がすごく似合っていると思う。 恥ずかしい話、まだ三回しか会ってないし謎だらけだがこの人のことが気になるのだ。 だから、知りたいと思っているのに彼は自分のことをちっとも話さない。



「私雑渡さんに興味あるんです」



そう言うと雑渡さんはふざけて「きゃ、ちゃんいやらしい」と言った。 もう、見た目はすごくかっこよくてダンディなのに中身はちょっと子供っぽい。 そこがまた、いいんだけど。



「私もちゃんに興味あるよ」
「私のこと知ったって何もおもしろくないですよ?」
「だったら私も同じ言葉を君に返そう」



雑渡さんは絶対にすごい秘密を持ってそうな気がする。



「そんなことないけどねえ」
「昔ヤンキーだったとか」
「あ。それは正解」
「ほらやっぱりー!なんかそういうのある!」
「やだな。そんなにヤンキーっぽいところある?」
「雰囲気が最初怖かったです。でも喋ってみると全然」



素晴らしいギャップですよ、っていうと雑渡さんは笑った。 「じゃあ、ちゃん惚れちゃった?」一瞬どきっ、としたけど「さあどうでしょう?」と答えた。 これ以上何か言われるとポーカーフェイスができそうにないのでどうしようかと思っていたけれど そこにちょうどオーナーがマフィンを持ってきてくれたので、話題がそれた。



ちゃんここのマフィン好きだね」
「はい。おいしいんですよ?ふわふわしてて。一口食べます?」
「じゃあ、いただいちゃおうかな」



一口大にちぎったマフィンのひとかけらを雑渡さんに渡そうとすると、雑渡さんはこちらを向いて にやにやしていた。「ほら、どうぞ」って渡すけど受け取ってくれない。いらないんですか? って自分で食べようとしたら腕をつかまれる。



「何がしたいんですか、もう」
「あーん、してよ」
「は?雑渡さんご冗談はやめてくださいね」



食べないんだったら、あげません。っていうと雑渡さんは「冗談冗談」といいながら 私からマフィンを奪って食べた。「ん、おいしいねえ」ね?おいしいでしょう?



「じゃあ次会ったときは私のおすすめをちゃんに食べてもらおうかな」
「本当ですか?やった、楽しみにしておきます」



次の約束をして、私たちはまたここで会う。