大通りから少し抜けたところにあるレンガでできたお洒落な喫茶店。 ひっそりとしたところにあるため、お客さんが少ないと思われがちだが実際まったくの逆である。 といっても、ほとんどが常連客だ。いつもいるお客さんの顔は決まっている。場所も定着している。 そして私もつい最近の話だが常連客になった。この店をとても気に入っている。

奥にある窓側のカウンター。そこからはビルとビルの間から大通りが丁度見える位置だ。 それにその大通りの奥に小さいけれど私が勤めている会社が見える。 この喫茶店の中で一番のポジションだと、私は思っている。



「いつもの、お願いしてもいいですか」



そうオーナーにいうとにっこり笑ってカフェラテとマフィンを持ってきてくれた。 コーヒーはまだ苦手だ。でもいつか飲めるようになりたいな、と思っている。 (コーヒーを飲めるのってなんだかかっこいいでしょう?) それとマフィン。ここのオーナーが作るマフィンはちょうどいい甘さでふわふわで大好き。



「隣、いいかな」



大通りを見ていると、声をかけられた。スーツを着た男の人。 「どうぞ」というと彼は荷物を置いて私の隣へ座った。



「いつもここに座っているね」
「ここ、大通りがちょうど見えるんですよ」



ほら、と外を見れば彼も外を見て「本当だ」と呟いた。 いやあ、おもしろいねえ、ここ。と言いながら大通りを見ている彼をふと見てみる。 よく見ればかっこいいじゃないか。けれど、二十代…ではなさそう。



「そんなに見つめられると困っちゃうよ、おじさん」
「えっ、いやそんなつもりでは!」



視線に気付いた彼は私を見てにっこりした。 慌てて目を逸らして気を紛らわすためにカフェラテを飲んだ。 それよりも何故この人は私の横に来たんだろう。まわりを見渡せば席はぽつぽつと空いているし。



「ナンパですか?」



ふとそんなことを聞くと彼はコーヒーをのどにつまらせたのか、ごほごごほと咳をした。



「ナンパ、のつもりじゃないけど」
「そうですか。ですよね、ごめんなさい」
「いや、でも話してみたいと思っていたから、世間的にいうとナンパっていうのかな?」
「うーん、どうでしょう?」
「こんなおじさんと話すのは嫌?」
「いいえ。話し相手が欲しいと思っていたところでした」



そういうと彼はにっこり笑った。一瞬だけど、心臓がはねた。